今宵は満月。
何ともおあつらえ向きの夜だ。
焚いている篝火の炎が少し明るさを増す。
今日からすべてが始まる。
今日このときから、オレはオレたちを虐げてきた京の民の上に立つ。
シャンシャンシャン……
耳障りな鈴の音が響く。
この音が鳴り終わった時、四神はこの手に。
そして、龍神の神子も、この手に。
シャンッ、とキレのいい鈴の音が響いて、舞が終わった。
思わずニヤける顔を抑えるのも一苦労だ。
鈴の余韻が消えると、図っていたかのように月が赤く色を変え、欠けていく。
そうだ、この時を待っていた。
月明かりもなく、完全に闇に包まれるこの時を。
すっと前に手を翳す。
「京に呪詛を」
発した言霊に、京が応えた。
普通の状態ならば決して目にすることのできない四神の姿が、呪詛によって現れる。
力のないものは何が起きているかすらわからないことだろう。
今日からこの都の支配者は、オレだ。
右手を強く握りしめると、京から四神が消えたのがわかった。
縛が成功したのだ。
これで四神はオレのもの。
京を護る結界も、消え失せた。
あとは。
「龍の宝玉を」
淡く輝くその宝玉で、神子を召喚すればよい。
「はっ」
男が宝玉をオレの前に翳す。
宝玉に手を翳すと、宝玉は簡単に浮いて、オレの手に収まる。
龍神と神子をつなぐ龍の宝玉。
さあ、オレの呼びかけに応えるんだ。
「龍神の神子、オレの声に、応えよ」
走っても走っても遠い。
ぜぇぜぇと肩で息をしながら、オレはそれでも足を前に動かした。
さっきから全速力でダッシュしているのに三橋はその先を行く。
どうして追いつけないんだろう。
三橋の足がオレたちより速いのか、いやそれだけじゃない。
オレらぐらいの歳で似たような体格なら、走る速度だって高が知れてる。
別の何か、さっき三橋が誰かに呼ばれているようだって感じたけれど、その誰かが三橋を引き寄せている。
そんな感じがした。
普段は絶対こんなオカルト信じないけれど、そうも言ってられない。
実際三橋は恐ろしいスピードで草むらを駆けているのだから。
「三橋っ、……足速すぎっ」
元陸上部がこれじゃあ形無しだ。
「おっ、止まるみたいだぞ……ってやっぱり」
呼吸を整えながら栄口がひきつった表情になる。
よくよく前を見てみると、三橋は例の古ぼけた古井戸の前でぴたりと止まった。
まるで封印でもしてあるみたいに、井戸の周りには注連縄が張ってあり、上はぼろぼろで意味あるのかって感じの木の板でふたがしてあった。
やっぱり三橋はこの古井戸を目指して走っていたのか。
当たってほしくない予感がぴたりと当たってしまったときほど、気持ち悪いものはない。
ましてや、ゆ、幽霊なんて、そんな、オレ霊感なんかこれっぽっちもないぞ!
「三橋っ!どうしたんだよ、いきなり走り出して」
栄口が三橋に近づきながらそう言った。
それでも三橋はこっちを見ようともしない。
蓋の閉まっている井戸を覗き込むようにして立っている。
明らかにおかしい。
目が合ったオレたちの頭には同じフレーズが浮かんでいた。
「……呼んでる」
ぼそりと三橋がそう呟いた瞬間。
どんっ、と井戸から突風と目も眩むような光が飛び出してきた。
空がいびつに歪み、不気味に七色に光る。
あっという間にオレたちが持っていたカバンはどこかに飛ばされ、見えなくなった。
「うわっ」
「な、なに?」
風が顔面を直撃し、思わず目をつぶってしまった。
強すぎて、目を開けていられない。
正直立っているのがやっとだ。
「うわぁっ」
小さく聞こえた三橋の叫び声になんとか目を開けると、三橋が井戸の中に引きずり込まれようとしている。
風は外側に向かって吹いているのに、三橋の周りだけブラックホールみたいに三橋を取り込まんとしていた。
(おいおい、これってオカルトってレベルじゃないよね……)
顔の前に腕を翳して風を避けながら、目の前で起こっている現象に目を凝らす。
正直、現実だなんで思いたくなかった。
「三橋っ!!」
声のした方を見ると、栄口が三橋のそばに駆け寄って、井戸から体を引き離そうとしていた。
それを見てはっと気づく。
そ、そうだ、三橋を助けなきゃ!あんなところにいたら井戸の中に吸い込まれてしまう。
慌てて栄口の援護に回ろうとしたその時だった。
「み……神子に気安く触れるな」
若い男の声がしたかと思うと、次の瞬間、オレと栄口は大きく後ろに吹き飛ばされていた。
地面に強かにぶつかり、背中に鋭い痛みが走る。
「なっ!」
「ってぇ……」
それでも三橋が心配ですぐ顔をあげると、井戸の上に現れた黒い影が三橋を抱きとめていた。
人型?人間なのか……?
影のような存在だからか、顔がよく見えない。
三橋は抵抗する気力もないらしい。影を押しのける気配もなかった。
このままじゃ、三橋は連れて行かれる。
とっさにそう思った。
だからってどうしたものか考えあぐねていると、もう一度栄口が井戸に向って走り、今にも連れて行かれそうな三橋を黒い影から引き離す。
その間、オレは後ろで見ていることしかできなかった。
「邪魔をするな、神子はオレのものだ」
男の怒気をはらんだ冷酷な声音が辺りに響いた。
暴風が一層強くなる。
じり、と靴が後ろへ滑るのを感じた。
このままじゃ風に飛ばされてしまう。
「西広っ!!」
栄口が必死の形相でオレに三橋を投げてよこす。
「栄口!?」
「お前は三橋を連れてここから逃げろ!こいつはオレが何とかするから」
「栄口!?何とかするったって、そんなの無理だよ!」
「いいから!こいつの狙いはたぶん三橋だ!早く三橋を連れて逃げろ!」
「小癪な……」
黒い影から人の頭ほどもある手が伸びて、栄口の頭をつかむ。
そのまま腕は井戸の方へと彼をずるずる引っ張っていった。
このままじゃ栄口が!
オレはその場から動くことができなくなった。
その間も栄口はオレに向かって怒鳴り続ける。
「西広早く!」
「でもっ!!」
このままじゃお前が、そう言おうとして栄口の声に遮られる。
「このままじゃオレたち全員やられちゃうよ。早く三橋を連れて逃げろ!」
その声で覚悟は決まった。
「三橋、こっち!」
三橋の手をとって元来た道を駆けだす。
「っ」
頭が働いていないのか、三橋の動きは鈍重だった。
でもそんなこと言ってられない。
このままじゃ、オレたち全員やられちゃう。
「三橋頼むから走って!」
三橋に向かって必死に叫んだ。
虚ろな目がこっちを見返して、小さくうなづいたように見えた。
よかった、今度は言葉が通じた。
それに勇気づけられたオレは三橋の手をさらにぐっと掴み、速度を上げた。
不意に、周りを取り巻く風の種類が変わった。
その強さは衰えていないものの、体に受ける感触が明らかに変わったのだ。
動けないほどの圧迫感は消え去り、ただ強い風を身に受けている状態。
「おのれ龍神、オレの邪魔をするか」
後ろで黒い影の男の憎々しげな声がする。
男がそう呟いたとたん、後ろからざぁっと大きな風の流れる音がした。
気になって後ろを振り返ろうとしたオレの目に入ったのは、体が半分透けた白い龍。
その龍がオレたちの周りにとぐろを巻き始めた姿だった。
まるでオレたちを守ってくれるみたいに龍はオレたちのそばから離れない。
龍が動くたびに強い風が辺りに巻き起こるのがわかった。
「ちっ、今日のところはこれで引こう。だが次はない、必ず神子を我が物に」
忌々しげに舌打ちをすると、そう捨て台詞を残して黒い影は消えた。
と同時に、歪んでいた空も元の青を取り戻す。
しかし、井戸から発せられる風だけは収まる気配を見せず、今度はより強くなってオレたちに襲いかかった。
さらに、オレたちを包むようにしてとぐろを巻いていた龍も大きく動き出し、あらゆる方向の強風が巻き起こる。
何なんだこいつ、オレたちを助けてくれたんじゃなかったのかよ。
心の中でちょっと生まれた安心感を根こそぎ持って行かれた気分だ。
白い龍が動くたび、三橋との手が離れそうになる。
「三橋っ、絶対離すなよっ」
「……あ」
そう叫んで、もう一度手を握りなおそうとした時。
その瞬間を待っていたみたいに、白い龍が今までで一番激しく体を揺らした。
同時にオレから三橋の方へ今までで一番の突風が吹き荒れる。
「うあっ」
風に押されて、三橋の体がふわりと宙に浮いた。
「三橋っ」
必死に三橋の手をつかむ。
離しちゃだめだ、離したら……。
いくら願っても神は無情だ。
するり。
いともあっけなく手は離れた。
空中で支えのない三橋の体は、白い龍の動きに乗って井戸に吸い込まれていく。
そしてオレの体も。
今まで踏ん張っていた支えを急になくしたオレの体は、どこに縋ることもなくあっけなく風の流れに乗ってしまった。
まるで龍の背中に乗っているみたいに、半分透けている龍の体に巻き込まれる。
(しまっ)
自分の体が井戸に向かって飛ばされているのがわかる。
ああ、もうこのまま身を任せるしかないんだと思った。
(そうだ、栄口!栄口は……)
激しい風の中辺りを見回すと、黒い影の手という枷を失った栄口の体もふわりと浮いて、白い龍の体に飲み込まれるように飛んでいた。
ああ、オレたちはこの後どうなるんだろう。
三橋、栄口。
ごめん、オレはお前らを守ることも、支えることもできなかった。
本当にごめんな。
それが、井戸に吸い込まれる前に覚えている最後の記憶だった。
何ともおあつらえ向きの夜だ。
焚いている篝火の炎が少し明るさを増す。
今日からすべてが始まる。
今日このときから、オレはオレたちを虐げてきた京の民の上に立つ。
シャンシャンシャン……
耳障りな鈴の音が響く。
この音が鳴り終わった時、四神はこの手に。
そして、龍神の神子も、この手に。
シャンッ、とキレのいい鈴の音が響いて、舞が終わった。
思わずニヤける顔を抑えるのも一苦労だ。
鈴の余韻が消えると、図っていたかのように月が赤く色を変え、欠けていく。
そうだ、この時を待っていた。
月明かりもなく、完全に闇に包まれるこの時を。
すっと前に手を翳す。
「京に呪詛を」
発した言霊に、京が応えた。
普通の状態ならば決して目にすることのできない四神の姿が、呪詛によって現れる。
力のないものは何が起きているかすらわからないことだろう。
今日からこの都の支配者は、オレだ。
右手を強く握りしめると、京から四神が消えたのがわかった。
縛が成功したのだ。
これで四神はオレのもの。
京を護る結界も、消え失せた。
あとは。
「龍の宝玉を」
淡く輝くその宝玉で、神子を召喚すればよい。
「はっ」
男が宝玉をオレの前に翳す。
宝玉に手を翳すと、宝玉は簡単に浮いて、オレの手に収まる。
龍神と神子をつなぐ龍の宝玉。
さあ、オレの呼びかけに応えるんだ。
「龍神の神子、オレの声に、応えよ」
走っても走っても遠い。
ぜぇぜぇと肩で息をしながら、オレはそれでも足を前に動かした。
さっきから全速力でダッシュしているのに三橋はその先を行く。
どうして追いつけないんだろう。
三橋の足がオレたちより速いのか、いやそれだけじゃない。
オレらぐらいの歳で似たような体格なら、走る速度だって高が知れてる。
別の何か、さっき三橋が誰かに呼ばれているようだって感じたけれど、その誰かが三橋を引き寄せている。
そんな感じがした。
普段は絶対こんなオカルト信じないけれど、そうも言ってられない。
実際三橋は恐ろしいスピードで草むらを駆けているのだから。
「三橋っ、……足速すぎっ」
元陸上部がこれじゃあ形無しだ。
「おっ、止まるみたいだぞ……ってやっぱり」
呼吸を整えながら栄口がひきつった表情になる。
よくよく前を見てみると、三橋は例の古ぼけた古井戸の前でぴたりと止まった。
まるで封印でもしてあるみたいに、井戸の周りには注連縄が張ってあり、上はぼろぼろで意味あるのかって感じの木の板でふたがしてあった。
やっぱり三橋はこの古井戸を目指して走っていたのか。
当たってほしくない予感がぴたりと当たってしまったときほど、気持ち悪いものはない。
ましてや、ゆ、幽霊なんて、そんな、オレ霊感なんかこれっぽっちもないぞ!
「三橋っ!どうしたんだよ、いきなり走り出して」
栄口が三橋に近づきながらそう言った。
それでも三橋はこっちを見ようともしない。
蓋の閉まっている井戸を覗き込むようにして立っている。
明らかにおかしい。
目が合ったオレたちの頭には同じフレーズが浮かんでいた。
「……呼んでる」
ぼそりと三橋がそう呟いた瞬間。
どんっ、と井戸から突風と目も眩むような光が飛び出してきた。
空がいびつに歪み、不気味に七色に光る。
あっという間にオレたちが持っていたカバンはどこかに飛ばされ、見えなくなった。
「うわっ」
「な、なに?」
風が顔面を直撃し、思わず目をつぶってしまった。
強すぎて、目を開けていられない。
正直立っているのがやっとだ。
「うわぁっ」
小さく聞こえた三橋の叫び声になんとか目を開けると、三橋が井戸の中に引きずり込まれようとしている。
風は外側に向かって吹いているのに、三橋の周りだけブラックホールみたいに三橋を取り込まんとしていた。
(おいおい、これってオカルトってレベルじゃないよね……)
顔の前に腕を翳して風を避けながら、目の前で起こっている現象に目を凝らす。
正直、現実だなんで思いたくなかった。
「三橋っ!!」
声のした方を見ると、栄口が三橋のそばに駆け寄って、井戸から体を引き離そうとしていた。
それを見てはっと気づく。
そ、そうだ、三橋を助けなきゃ!あんなところにいたら井戸の中に吸い込まれてしまう。
慌てて栄口の援護に回ろうとしたその時だった。
「み……神子に気安く触れるな」
若い男の声がしたかと思うと、次の瞬間、オレと栄口は大きく後ろに吹き飛ばされていた。
地面に強かにぶつかり、背中に鋭い痛みが走る。
「なっ!」
「ってぇ……」
それでも三橋が心配ですぐ顔をあげると、井戸の上に現れた黒い影が三橋を抱きとめていた。
人型?人間なのか……?
影のような存在だからか、顔がよく見えない。
三橋は抵抗する気力もないらしい。影を押しのける気配もなかった。
このままじゃ、三橋は連れて行かれる。
とっさにそう思った。
だからってどうしたものか考えあぐねていると、もう一度栄口が井戸に向って走り、今にも連れて行かれそうな三橋を黒い影から引き離す。
その間、オレは後ろで見ていることしかできなかった。
「邪魔をするな、神子はオレのものだ」
男の怒気をはらんだ冷酷な声音が辺りに響いた。
暴風が一層強くなる。
じり、と靴が後ろへ滑るのを感じた。
このままじゃ風に飛ばされてしまう。
「西広っ!!」
栄口が必死の形相でオレに三橋を投げてよこす。
「栄口!?」
「お前は三橋を連れてここから逃げろ!こいつはオレが何とかするから」
「栄口!?何とかするったって、そんなの無理だよ!」
「いいから!こいつの狙いはたぶん三橋だ!早く三橋を連れて逃げろ!」
「小癪な……」
黒い影から人の頭ほどもある手が伸びて、栄口の頭をつかむ。
そのまま腕は井戸の方へと彼をずるずる引っ張っていった。
このままじゃ栄口が!
オレはその場から動くことができなくなった。
その間も栄口はオレに向かって怒鳴り続ける。
「西広早く!」
「でもっ!!」
このままじゃお前が、そう言おうとして栄口の声に遮られる。
「このままじゃオレたち全員やられちゃうよ。早く三橋を連れて逃げろ!」
その声で覚悟は決まった。
「三橋、こっち!」
三橋の手をとって元来た道を駆けだす。
「っ」
頭が働いていないのか、三橋の動きは鈍重だった。
でもそんなこと言ってられない。
このままじゃ、オレたち全員やられちゃう。
「三橋頼むから走って!」
三橋に向かって必死に叫んだ。
虚ろな目がこっちを見返して、小さくうなづいたように見えた。
よかった、今度は言葉が通じた。
それに勇気づけられたオレは三橋の手をさらにぐっと掴み、速度を上げた。
不意に、周りを取り巻く風の種類が変わった。
その強さは衰えていないものの、体に受ける感触が明らかに変わったのだ。
動けないほどの圧迫感は消え去り、ただ強い風を身に受けている状態。
「おのれ龍神、オレの邪魔をするか」
後ろで黒い影の男の憎々しげな声がする。
男がそう呟いたとたん、後ろからざぁっと大きな風の流れる音がした。
気になって後ろを振り返ろうとしたオレの目に入ったのは、体が半分透けた白い龍。
その龍がオレたちの周りにとぐろを巻き始めた姿だった。
まるでオレたちを守ってくれるみたいに龍はオレたちのそばから離れない。
龍が動くたびに強い風が辺りに巻き起こるのがわかった。
「ちっ、今日のところはこれで引こう。だが次はない、必ず神子を我が物に」
忌々しげに舌打ちをすると、そう捨て台詞を残して黒い影は消えた。
と同時に、歪んでいた空も元の青を取り戻す。
しかし、井戸から発せられる風だけは収まる気配を見せず、今度はより強くなってオレたちに襲いかかった。
さらに、オレたちを包むようにしてとぐろを巻いていた龍も大きく動き出し、あらゆる方向の強風が巻き起こる。
何なんだこいつ、オレたちを助けてくれたんじゃなかったのかよ。
心の中でちょっと生まれた安心感を根こそぎ持って行かれた気分だ。
白い龍が動くたび、三橋との手が離れそうになる。
「三橋っ、絶対離すなよっ」
「……あ」
そう叫んで、もう一度手を握りなおそうとした時。
その瞬間を待っていたみたいに、白い龍が今までで一番激しく体を揺らした。
同時にオレから三橋の方へ今までで一番の突風が吹き荒れる。
「うあっ」
風に押されて、三橋の体がふわりと宙に浮いた。
「三橋っ」
必死に三橋の手をつかむ。
離しちゃだめだ、離したら……。
いくら願っても神は無情だ。
するり。
いともあっけなく手は離れた。
空中で支えのない三橋の体は、白い龍の動きに乗って井戸に吸い込まれていく。
そしてオレの体も。
今まで踏ん張っていた支えを急になくしたオレの体は、どこに縋ることもなくあっけなく風の流れに乗ってしまった。
まるで龍の背中に乗っているみたいに、半分透けている龍の体に巻き込まれる。
(しまっ)
自分の体が井戸に向かって飛ばされているのがわかる。
ああ、もうこのまま身を任せるしかないんだと思った。
(そうだ、栄口!栄口は……)
激しい風の中辺りを見回すと、黒い影の手という枷を失った栄口の体もふわりと浮いて、白い龍の体に飲み込まれるように飛んでいた。
ああ、オレたちはこの後どうなるんだろう。
三橋、栄口。
ごめん、オレはお前らを守ることも、支えることもできなかった。
本当にごめんな。
それが、井戸に吸い込まれる前に覚えている最後の記憶だった。
やっと飛んでくれたけど、めちゃくちゃ無理やりな展開です
2008/11/27 composed by Hal Harumiya
2008/11/27 composed by Hal Harumiya