「……ろ」
う……?あれ、オレどうしたんだろ?
体が重くて動けないや……。
オレいったい何やってたの?
「い…起きろ」
あれ?なんか声が聞こえる。
お…きろ?あれ、オレ寝てたっけ?
とりあえず、起きなきゃ……。
「起きろっつってんだろ!!!」
「はいぃぃぃぃ!!」
耳元で突然叫ばれた大声に、体が勝手に反応してがばりと起き上がる。
さっきまで重かった体が嘘のよう。
起き上がって辺りを見回すと、ただただ暗い空間が広がっていることに気づいた。
何度目を凝らしても、人影も一筋の光すら見あたらない。
(え……?)
なに、ここどこ?
オレ、一体……。
なんでこここんなに暗いの?
なに、一体、どうしたら、え?
なにから考えていいのかわからなくなって、どうすればいいのかわからなくなって。
涙腺が勝手に緩む。
ものすごく泣きたい気分だった。
というか、泣いてもいいだろうか、こんな状況。
オレはさっきまで高校に向かって歩いていたはずなのに。
「……っひ、っく」
なんだなんだ、どうしたらいいんだ。
オレは一体どうなったって言うの?
徐々にはっきりしてくる頭でも、処理が追いつかない。
もともとオレはそんなに頭よくない。
さっきまで一緒にいた栄口君と西広君は?
あ、あの白い龍は?
よく覚えていないけれど、オレたち井戸の中に吸い込まれて……。
それからどうなったんだ?
聞きたいことは山ほどあるのに、今オレがいるこの場所にはオレ以外誰もいない。
ただ暗い空間が広がっているだけ。
一人ぼっち、だった。
「……う、あ」
ぞくりと背筋に鳥肌が立つ。
せっかく友達ができたのに、初めての友達だったのに。
また、一人ぼっちになってしまった。
(オレ、どうしたらいいの?)
どうしたら元の世界に帰れる?
どうしたら栄口君と西広君とまた会える?
どうしたらいいの?何をしたらいいの?
もう、わけがわからない。
「……ど、どう、し、て……」
こんなことに、と続けようとして、聞こえてきた声に耳を疑う。
「それはお前が龍神の神子に選ばれたからだ」
びっくう、と盛大に肩があがった。
ドッドッドと、心臓がものすごい勢いで動き始めた。
どうして?さっきまで確かに誰もいなかったのに。
もう一度辺りをぐるりと見渡す。
うん、た、確かに誰もいない。
さーっと血の気が引くのがわかった。
オオオ、オレ、幽霊とか、そういうの苦手……なんだけど。
ど、どうしよう、幽霊だったらどうしよう、オレ向こうの世界に連れて行かれちゃうのかな?
「あーーー落ち着け!オレは幽霊でもねぇし、妖でもねぇよ」
上から降ってきた声に反応して空を見上げると、さっきは気づかなかったがうっすらと光の塊が見えた。
「おっ、やっと気付いたな。ったくオレが選んだのに、なんでオレの存在がわかんねぇんだよ」
どうやら光の中心から声がしているようなのだが、いかんせん姿が見えない。
というか、オレが呼んだというのはどういうことなんだろう。
確かにオレはここに来る前誰かに呼ばれた。
一つはシャンっという鈴の音と、もう一つは黒い影のような存在の声。
どちらも頭に直接響いて、オレはそれに従わなきゃいけないような気になって。
気がついたら、あの廃寺の中の古井戸の前に立っていたのだ。
そうなると、あの鈴の音も黒い影も、この光の中にいる人?
でも、声とか若干違うような気もするし……。
(……い、意味、わかんない……)
「あー?まさかさっぱり意味がわかりませんってわけじゃねぇだろうな……」
「ひっ」
どすの利いた声が上から響き、無意識に肩をすくめる。
わからない?わからない?
わからないかすらもわからない。
とりあえず、なんでオレはここにいるの?
「……あ」
「なんだよ、言いたいことがあるんならはっきり言えっ!!」
「ひぃい!」
怖い、怖すぎる。
姿が見えないから余計に怖い。
いや、見えた方がもっと怖いかもしれない。
「……あ、の、なんで、オレ、ここ、どこ?」
「はぁ?」
精一杯恐怖心を押し隠して告げた言葉だったのに。
わかってる、落ち着かなきゃ通じないことも。
ずっとそう言われてきたんだから。
でも、この状況はどうしよう、落ち着くことなんてできないよ。
でも、どうやらオレが本気で分かっていないことを察してくれたのか、光の人はうーんと唸り始めた。
「まあ、そりゃそうか。何の説明もないまま連れてきちまったもんな」
悪ぃと、謝られた。
「ここはオレとお前の意志の狭間だ。ここにはオレとお前しか存在しない」
……?
さっぱり意味がわからない。
どうやらそれが顔に出ていたようだ。
「なんでわかんねぇんだよっ!物わかり悪ぃなお前!」
ピッシャーンと雷が落ちた。
「ご、ごめんなさ、い」
なんとかもごもごと謝る。
「つまり、ここはオレとお前しかいない世界だっつーこと」
やっぱり意味がわからないけれど、とりあえずこの世界にはオレと光の人しかいないということは分かった。
「あの、あなた、は?」
「お前、オレが何者かもわからねぇでのんきにしゃべってたのかよ!終いには泣くぞ、オレ」
そ、そんなこと言ったって……聞くタイミングがなくて……。
それにこ、怖いし……。
「はぁー。悪ぃ、自己紹介すらまだだったなそう言えば。オレは、まあ、この世界で言う龍神だ、龍神」
あっさりと光の人は言い放った。
「りゅ、龍……じ、ん?」
「あーー、詳しくはまた知る機会があるからそっちで聞け。で、お前はオレが選んだ龍神の神子」
リュウジンノミコ?
って?
ああ、なんか頭がぐるぐるしてきた。
いろんなことが一度に起こり過ぎだ、わけがわからない。
「りゅ、龍神の神子……って」
「あーーーその話も後で聞け、大丈夫だ説明してくれる奴がいるから」
めんどくさそうに龍神だと名乗った光の人はオレに言った。
「で、だ。本題に入るぞ。……っとその前にお前の名前聞いてなかったな、なんて言うんだ?」
「み、三橋廉……です。……どう、も」
名を問われて素直に口にする。
龍神は三橋廉か、とオレの名前を復唱した後、ワンテンポおいて、
「どうも、じゃねぇよっ!なんでお前オレがあんなに一生懸命呼んでんのに気づかねぇんだっ!」
「挙句の果てには鬼にかどわかされそうになりやがって……愚図、のろま」
「というか、オレの呼びかけより鬼の呼びかけに応えるたぁどういうことだオイ」
とそこまで一息に怒鳴り散らした。
言葉通り息を吸うのも忘れたらしく、ぜいぜいと息切れをしている。
突然耳元で怒鳴られたオレは何が何だか理解できない。
どうやら相当鬱憤がたまっていたらしい。
とりあえず、龍神の機嫌がめちゃくちゃ悪いのだけはわかった。
なんで怒られているのかは全く理解できなかったけれど。
「え……あ?」
なんと言えばいいのかわからなくて、そんな言葉になっていないような音しか出てこなかったのだが。
これがますます龍神の機嫌を損ねたらしく。
「お前はオレの神子だぞ、お前を選んだのはこのオレだ。だからお前はオレの言うこと聞いてりゃいいんだよっ!!」
とさっきよりもより近い位置で怒鳴られた。
耳がきーんとなってよく聞こえない。
龍神の怒鳴り声が脳の奥まで沁み渡った。
何を言われているのかさっぱりわからないけれど。
龍神を怒らせてしまったみたいだ。
本当に人怒らせることしかできないな、オレ。
と、とにかく謝らなくちゃ。
「ご、ごめんな、さ、い」
ぺこりと慌てて頭を下げても、龍神は憮然とした声音を崩さない。
「別に謝ってほしくて言ってんじゃねぇよ。危機感を持てっつってんだ」
「……き、きかん?」
「そうだ、ぽやぽやしてんな!疑うことを覚えろ!知らねぇ奴についていくな!」
「う、お」
「いいか、お前は自覚ねぇだろうがな、お前にはすごい力が眠ってんだ」
内緒話をするように突然龍神は声のトーンを落とした。
すごい力?オレに?
「う、そだ」
「嘘じゃねぇよ。だからさっきも連れて行かれそうになっただろ?お前を欲しがった奴に」
苛立たしげに龍神が呟く。
さっきのあれはそうだったのか?
オレになんだかよくわからないけれど力があるから、井戸に連れ込まれそうになったのか。
「鬼にやるなんて冗談じゃねぇから、追っ払ってオレが連れてきたんだ。お前はこの世界に必要だからな」
オレが?この世界に必要?
どんどん増えていく新しい情報に、どんどん疑問符がついていく。
「三橋、お前は鬼によって歪められたこの世界の理を正しく戻さなくちゃならない。世界を均衡に保たなきゃいけない」
「お前にはその力がある、いや、これはお前にしかできないことなんだ、三橋」
声だけしか聞こえないのに、まるで肩を大きく揺さぶられている気分になった。
世界の均衡を保つ力?
人に迷惑ばかりかけているオレが?
どう考えても龍神の勘違いだろう。
そんな力オレにはない、これっぽっちも。
「む、むり」
口から自然にこぼれる否定。
だってそんなの無理だ。
オレは何の変哲もないただ高校生で、友達も碌にいなくって、誰からも必要とされていない、いない方がいい存在なのに。
そんな人間が世界を救うなんてできるわけないじゃないか。
そんなことができるのは何かの漫画の主人公みたく前向きで明るくて自信満々な人って相場は決まっている。
「無理じゃねぇよ!」
オレのそんな考えを吹き飛ばすように、龍神が叫んだ。
「オレはお前を認めてる。お前はオレの波長と近い上に、オレの力を受け入れる器がものすごくでかい。だからオレはお前を選んだ、お前しかいないんだよ」
そこで龍神は一呼吸置く。
「オレにはお前が必要なんだ」
真摯な声が真っ暗な空間に響いた。
やっぱり何のことを話しているか全然理解できなかったけれど、龍神はオレが必要だって言った。
じわじわと先刻の言葉が胸に広がる。
龍神は、この人はオレを認めてくれるの?
お前なんかいる意味ないって言われ続けたオレのこと、必要としてくれてるの?
「あっ……」
「ま、なんと言おうと結局お前に拒否権はないんだけどな。お前、オレの言うこと聞かなきゃ元の世界に帰れねぇし」
……え?
聞こえた言葉に耳を疑う。
そのせいで今何を自分が言おうとしたのか忘れてしまった。
言葉が出なくて、呆然と見上げていると、にやりと意地の悪い笑みが見えたような気がした。(龍神の顔なんてわからないのに)
「オレはお前を選んだ。だからお前はオレのために世界を救え。オレはお前を離さねぇからな、絶対」
次の瞬間、ぶわっと風が巻き起こる。
「う、あっ」
その風に乗ってオレの体はまたふわりと一旦宙に舞い、ふっと重力を失うように暗闇の中へ落ちていく。
ちょっと、待って。
まだ、オレ、やるなんて言ってないのに。
ていうか、オレにできるわけないのに。
元の世界に帰りたいのに。
認めてくれる人がいて嬉しかったけれど、龍神はものすごく勝手だ。
これ以上は問答無用とばかりに頭上に見えていたかすかな光が遠くなっていく。
考えなきゃいけないことがたくさんあったのに、落ちる感覚に呑まれて頭が働かない。
気を失う寸前に思った事は、今度龍神に会ったら勇気を出して文句の一つでも言おう、ということだった。
う……?あれ、オレどうしたんだろ?
体が重くて動けないや……。
オレいったい何やってたの?
「い…起きろ」
あれ?なんか声が聞こえる。
お…きろ?あれ、オレ寝てたっけ?
とりあえず、起きなきゃ……。
「起きろっつってんだろ!!!」
「はいぃぃぃぃ!!」
耳元で突然叫ばれた大声に、体が勝手に反応してがばりと起き上がる。
さっきまで重かった体が嘘のよう。
起き上がって辺りを見回すと、ただただ暗い空間が広がっていることに気づいた。
何度目を凝らしても、人影も一筋の光すら見あたらない。
(え……?)
なに、ここどこ?
オレ、一体……。
なんでこここんなに暗いの?
なに、一体、どうしたら、え?
なにから考えていいのかわからなくなって、どうすればいいのかわからなくなって。
涙腺が勝手に緩む。
ものすごく泣きたい気分だった。
というか、泣いてもいいだろうか、こんな状況。
オレはさっきまで高校に向かって歩いていたはずなのに。
「……っひ、っく」
なんだなんだ、どうしたらいいんだ。
オレは一体どうなったって言うの?
徐々にはっきりしてくる頭でも、処理が追いつかない。
もともとオレはそんなに頭よくない。
さっきまで一緒にいた栄口君と西広君は?
あ、あの白い龍は?
よく覚えていないけれど、オレたち井戸の中に吸い込まれて……。
それからどうなったんだ?
聞きたいことは山ほどあるのに、今オレがいるこの場所にはオレ以外誰もいない。
ただ暗い空間が広がっているだけ。
一人ぼっち、だった。
「……う、あ」
ぞくりと背筋に鳥肌が立つ。
せっかく友達ができたのに、初めての友達だったのに。
また、一人ぼっちになってしまった。
(オレ、どうしたらいいの?)
どうしたら元の世界に帰れる?
どうしたら栄口君と西広君とまた会える?
どうしたらいいの?何をしたらいいの?
もう、わけがわからない。
「……ど、どう、し、て……」
こんなことに、と続けようとして、聞こえてきた声に耳を疑う。
「それはお前が龍神の神子に選ばれたからだ」
びっくう、と盛大に肩があがった。
ドッドッドと、心臓がものすごい勢いで動き始めた。
どうして?さっきまで確かに誰もいなかったのに。
もう一度辺りをぐるりと見渡す。
うん、た、確かに誰もいない。
さーっと血の気が引くのがわかった。
オオオ、オレ、幽霊とか、そういうの苦手……なんだけど。
ど、どうしよう、幽霊だったらどうしよう、オレ向こうの世界に連れて行かれちゃうのかな?
「あーーー落ち着け!オレは幽霊でもねぇし、妖でもねぇよ」
上から降ってきた声に反応して空を見上げると、さっきは気づかなかったがうっすらと光の塊が見えた。
「おっ、やっと気付いたな。ったくオレが選んだのに、なんでオレの存在がわかんねぇんだよ」
どうやら光の中心から声がしているようなのだが、いかんせん姿が見えない。
というか、オレが呼んだというのはどういうことなんだろう。
確かにオレはここに来る前誰かに呼ばれた。
一つはシャンっという鈴の音と、もう一つは黒い影のような存在の声。
どちらも頭に直接響いて、オレはそれに従わなきゃいけないような気になって。
気がついたら、あの廃寺の中の古井戸の前に立っていたのだ。
そうなると、あの鈴の音も黒い影も、この光の中にいる人?
でも、声とか若干違うような気もするし……。
(……い、意味、わかんない……)
「あー?まさかさっぱり意味がわかりませんってわけじゃねぇだろうな……」
「ひっ」
どすの利いた声が上から響き、無意識に肩をすくめる。
わからない?わからない?
わからないかすらもわからない。
とりあえず、なんでオレはここにいるの?
「……あ」
「なんだよ、言いたいことがあるんならはっきり言えっ!!」
「ひぃい!」
怖い、怖すぎる。
姿が見えないから余計に怖い。
いや、見えた方がもっと怖いかもしれない。
「……あ、の、なんで、オレ、ここ、どこ?」
「はぁ?」
精一杯恐怖心を押し隠して告げた言葉だったのに。
わかってる、落ち着かなきゃ通じないことも。
ずっとそう言われてきたんだから。
でも、この状況はどうしよう、落ち着くことなんてできないよ。
でも、どうやらオレが本気で分かっていないことを察してくれたのか、光の人はうーんと唸り始めた。
「まあ、そりゃそうか。何の説明もないまま連れてきちまったもんな」
悪ぃと、謝られた。
「ここはオレとお前の意志の狭間だ。ここにはオレとお前しか存在しない」
……?
さっぱり意味がわからない。
どうやらそれが顔に出ていたようだ。
「なんでわかんねぇんだよっ!物わかり悪ぃなお前!」
ピッシャーンと雷が落ちた。
「ご、ごめんなさ、い」
なんとかもごもごと謝る。
「つまり、ここはオレとお前しかいない世界だっつーこと」
やっぱり意味がわからないけれど、とりあえずこの世界にはオレと光の人しかいないということは分かった。
「あの、あなた、は?」
「お前、オレが何者かもわからねぇでのんきにしゃべってたのかよ!終いには泣くぞ、オレ」
そ、そんなこと言ったって……聞くタイミングがなくて……。
それにこ、怖いし……。
「はぁー。悪ぃ、自己紹介すらまだだったなそう言えば。オレは、まあ、この世界で言う龍神だ、龍神」
あっさりと光の人は言い放った。
「りゅ、龍……じ、ん?」
「あーー、詳しくはまた知る機会があるからそっちで聞け。で、お前はオレが選んだ龍神の神子」
リュウジンノミコ?
って?
ああ、なんか頭がぐるぐるしてきた。
いろんなことが一度に起こり過ぎだ、わけがわからない。
「りゅ、龍神の神子……って」
「あーーーその話も後で聞け、大丈夫だ説明してくれる奴がいるから」
めんどくさそうに龍神だと名乗った光の人はオレに言った。
「で、だ。本題に入るぞ。……っとその前にお前の名前聞いてなかったな、なんて言うんだ?」
「み、三橋廉……です。……どう、も」
名を問われて素直に口にする。
龍神は三橋廉か、とオレの名前を復唱した後、ワンテンポおいて、
「どうも、じゃねぇよっ!なんでお前オレがあんなに一生懸命呼んでんのに気づかねぇんだっ!」
「挙句の果てには鬼にかどわかされそうになりやがって……愚図、のろま」
「というか、オレの呼びかけより鬼の呼びかけに応えるたぁどういうことだオイ」
とそこまで一息に怒鳴り散らした。
言葉通り息を吸うのも忘れたらしく、ぜいぜいと息切れをしている。
突然耳元で怒鳴られたオレは何が何だか理解できない。
どうやら相当鬱憤がたまっていたらしい。
とりあえず、龍神の機嫌がめちゃくちゃ悪いのだけはわかった。
なんで怒られているのかは全く理解できなかったけれど。
「え……あ?」
なんと言えばいいのかわからなくて、そんな言葉になっていないような音しか出てこなかったのだが。
これがますます龍神の機嫌を損ねたらしく。
「お前はオレの神子だぞ、お前を選んだのはこのオレだ。だからお前はオレの言うこと聞いてりゃいいんだよっ!!」
とさっきよりもより近い位置で怒鳴られた。
耳がきーんとなってよく聞こえない。
龍神の怒鳴り声が脳の奥まで沁み渡った。
何を言われているのかさっぱりわからないけれど。
龍神を怒らせてしまったみたいだ。
本当に人怒らせることしかできないな、オレ。
と、とにかく謝らなくちゃ。
「ご、ごめんな、さ、い」
ぺこりと慌てて頭を下げても、龍神は憮然とした声音を崩さない。
「別に謝ってほしくて言ってんじゃねぇよ。危機感を持てっつってんだ」
「……き、きかん?」
「そうだ、ぽやぽやしてんな!疑うことを覚えろ!知らねぇ奴についていくな!」
「う、お」
「いいか、お前は自覚ねぇだろうがな、お前にはすごい力が眠ってんだ」
内緒話をするように突然龍神は声のトーンを落とした。
すごい力?オレに?
「う、そだ」
「嘘じゃねぇよ。だからさっきも連れて行かれそうになっただろ?お前を欲しがった奴に」
苛立たしげに龍神が呟く。
さっきのあれはそうだったのか?
オレになんだかよくわからないけれど力があるから、井戸に連れ込まれそうになったのか。
「鬼にやるなんて冗談じゃねぇから、追っ払ってオレが連れてきたんだ。お前はこの世界に必要だからな」
オレが?この世界に必要?
どんどん増えていく新しい情報に、どんどん疑問符がついていく。
「三橋、お前は鬼によって歪められたこの世界の理を正しく戻さなくちゃならない。世界を均衡に保たなきゃいけない」
「お前にはその力がある、いや、これはお前にしかできないことなんだ、三橋」
声だけしか聞こえないのに、まるで肩を大きく揺さぶられている気分になった。
世界の均衡を保つ力?
人に迷惑ばかりかけているオレが?
どう考えても龍神の勘違いだろう。
そんな力オレにはない、これっぽっちも。
「む、むり」
口から自然にこぼれる否定。
だってそんなの無理だ。
オレは何の変哲もないただ高校生で、友達も碌にいなくって、誰からも必要とされていない、いない方がいい存在なのに。
そんな人間が世界を救うなんてできるわけないじゃないか。
そんなことができるのは何かの漫画の主人公みたく前向きで明るくて自信満々な人って相場は決まっている。
「無理じゃねぇよ!」
オレのそんな考えを吹き飛ばすように、龍神が叫んだ。
「オレはお前を認めてる。お前はオレの波長と近い上に、オレの力を受け入れる器がものすごくでかい。だからオレはお前を選んだ、お前しかいないんだよ」
そこで龍神は一呼吸置く。
「オレにはお前が必要なんだ」
真摯な声が真っ暗な空間に響いた。
やっぱり何のことを話しているか全然理解できなかったけれど、龍神はオレが必要だって言った。
じわじわと先刻の言葉が胸に広がる。
龍神は、この人はオレを認めてくれるの?
お前なんかいる意味ないって言われ続けたオレのこと、必要としてくれてるの?
「あっ……」
「ま、なんと言おうと結局お前に拒否権はないんだけどな。お前、オレの言うこと聞かなきゃ元の世界に帰れねぇし」
……え?
聞こえた言葉に耳を疑う。
そのせいで今何を自分が言おうとしたのか忘れてしまった。
言葉が出なくて、呆然と見上げていると、にやりと意地の悪い笑みが見えたような気がした。(龍神の顔なんてわからないのに)
「オレはお前を選んだ。だからお前はオレのために世界を救え。オレはお前を離さねぇからな、絶対」
次の瞬間、ぶわっと風が巻き起こる。
「う、あっ」
その風に乗ってオレの体はまたふわりと一旦宙に舞い、ふっと重力を失うように暗闇の中へ落ちていく。
ちょっと、待って。
まだ、オレ、やるなんて言ってないのに。
ていうか、オレにできるわけないのに。
元の世界に帰りたいのに。
認めてくれる人がいて嬉しかったけれど、龍神はものすごく勝手だ。
これ以上は問答無用とばかりに頭上に見えていたかすかな光が遠くなっていく。
考えなきゃいけないことがたくさんあったのに、落ちる感覚に呑まれて頭が働かない。
気を失う寸前に思った事は、今度龍神に会ったら勇気を出して文句の一つでも言おう、ということだった。
龍神様は、スーパーSです
2008/11/20 composed by Hal Harumiya
2008/11/20 composed by Hal Harumiya