世界は君で回ってる

※3年卒業間近のらーぜたちとかいうif設定




 「で、田島?なんで三橋んちにオレらを呼び出したんだ?」

 頭を抱えながら花井が口にしたことに、三橋と田島を除く全員が不思議そうな面持ちでうなずく。
 一方の不動のエースと4番はというと。

 「だってなー、オレらいいこと思いついちまったんだもんなー」

 ねー、と、お互い見つめながら同時に首をこてんとかしげて、ニカッと笑った。
 ああ、こんなところは引退しても全然変わってないんだな、とか場違いなことを思ったのは置いておいて。
 さっさと本題に入ってもらおうか。




 ぐるっと三橋んちの大型テーブルを囲んだのは、西浦高校3年の野球部のメンツだ。 なぜかみんな正座して、神妙な面持ちで田島の言葉を待っている。
 夏大が終わって、部活にもあんまり顔を出さなくなって久しい。 それぞれ、今度は自分の進路に向けて、今度は個人で頑張っているところだ。 野球で推薦とった奴もいれば、1月のセンター試験も終わり、その後に続く一般入試に向けて予備校通いしてる奴だっている。 だから、あんなに昼夜問わず寝食を共にしてきた仲だっていうのに、そんなに頻繁に顔を合わせることがなくなってしまった。
 もちろんたまには遊びにだって行っていたけれど、ほとんどは受験生。 2月も中旬のこの時期に追い込みをかけない受験生はほとんどいないだろう。
 それはこの11人だって同じこと。
 それでも、どうしてもみんなで集まって話がしたいというから、なんとか予備校の予定を空け、授業も文系と理系両方が午前中で終わる今日この日を選んだ。
 そして会場は慣れ親しんだ三橋家。
 勝手知ったるとはよく言ったもので、みんなで準備したテーブルにはいつも通り人数分のコップとペットボトルのジュース、お茶菓子が並んでいる。 そして、みんなそれぞれ自分の定位置に座り、田島の様子をうかがっていたというのに。
 当の本人は、自分が召集かけたことなんて完璧に忘れさって、三橋とじゃれている。
 そこで、冒頭の花井の一言に戻るのだ。
 ちなみに花井が口火を切ったのは、他のメンツの痛い視線に耐えられなくなったからで。

 ( もう、引退して主将じゃなくなったのに、オレって…… )

 とか、結構切ないことを考えていたらしいのだが、3年間西浦高校野球部の主将だったのに何をいまさら、他の部員はどこ吹く風だ。 話の進行役は花井の仕事だったのだから、当然の反応といえば当然なのだが。

 「……とりあえずお前ら、本題に入れ」

 若干疲れたような面持ちで花井は頭に手をやる。
 すると、ニッコニッコと笑っていた2人は、視線をみんなの方に向け。

 「なんか形あるもの残したくね?」

 と、キラキラ瞳を輝かせながらおっしゃった。
 は?
 と、三橋以外の部員の頭にクエスチョンマークが浮かんだのも至極当然のことだろう。
ちなみに三橋はというと、田島の一言を聞いてから、うひっと笑みを抑えきれない様子で微笑んでいた。 三橋が嬉しそうなのは大変喜ばしいことなのだけれども。

 「えーと、田島……もう少しわかるように説明してくれない?」

 さすがに、花井が不憫になったのか栄口が助け船を出す。
 わからない。まったくわからない。 「なんか形あるもの残したくね?」の発言の意図がわからない。

 「わりー、三橋との話でなんか完結してた」

 ひひひと笑いながら、わりわりーと両手を顔の前で合わせる田島。

 「つまりさ、オレたちもう卒業じゃん?」

 そうだ、もう3年生。もう2月も半ば。あと2週間ちょっともすれば卒業式があって、オレらは西浦から卒業する。

 「だからさ、何か形あるもの残しときてぇな、と思ってさ」

 なるほど。田島らしい考えだ。

 「それで考えたんだけどよ、部室にオレらのメッセージ入り色紙とか飾るのどーよと思って!」

 後輩たちへの逆センベツみたいにさ、と満面の笑みで取り出した色紙をオレらに見せながら田島は続ける。

 「あと、モモカンとシガポにもなんかメッセージとか送りてぇーじゃん?世話んなったし」

 そこまで言って、もう一度、田島と三橋は顔を見合せてニカッと笑った。

 つか、ニヤつき過ぎだこいつら。
 思わず緩みそうになる口元を慌てて引き締める。
わかる、オレだって話聞いただけなのにものすげぇわくわくしてきたんだし。 それ思いついたこいつらが始終顔緩みっぱなしなのもわかる。
 というか、そんなこと計画してたならオレも混ぜろよ! なんで言ってくんねーんだ! 3年間お前らの世話してきたの、誰だと思ってる!というのは的外れだけれど。
 なんか仲間外れにされたみたいでちょっと悔しい。
 そう思ってなんとなくあたりを見回すと、みんなニヤけるのをこらえるような、大声出したいのを抑えてるようなそんな複雑な表情をしていた。

 ( あれ、もしかしてお前らも )

 「〜〜〜〜っ、な、なんでもっと早く言わねんだよ!」
 我慢しきれなかったかのように、顔を少し赤らめてそう叫んだのは花井。

 「そ、そうだよ!2人して今日まで黙ってるなんてそんなのなんかずるいじゃん!」
 駄々をこねるように文句を言ったのは水谷。

 「オレらに内緒で2人でこそこそ内緒話してたんだろ!……なんか面白くねぇよな」
 と言ったのはオレ。
 他の奴らも言いはしないけれど、それぞれ顔赤くしてうなずいている。

 「だってよー驚かせた方がおもしれーじゃん!な、三橋」
 「う、うんっ!みんな、を、驚かせたかっ、た、から、成功」

 肩組みながら、ニカッと笑い合ったのは本日3度目。

 「だからってなぁっ!……やっぱずりぃ」

 阿部が悔しそうに苦笑いをする。

 「いや、オレはみんなにすぐ言いに行こうとしたんだぜ?けど三橋が」
 「たっ、田島くっ、それは、いい言っちゃ、だ、め」
 「あ……、わり、今のなし」

なんだよなんだよ! 今の言いかけめちゃくちゃ気になるじゃん!
 三橋がってことは、三橋が黙ってようって言ったのか?
 あの三橋が?
 あの、三橋が?
 やっぱりみんな一様に驚いて三橋を見てる。 だよなー、あの三橋が黙ってようなんて言うなんて。

 「三橋」

 ビクッと三橋の肩が大きく揺れる。 ギギギ、と壊れた人形みたいにゆっくり振りかえった三橋は阿部を目にすると、そのままこちんと固まってしまった。
 3年間で心に刻まれた絶対的恐怖は、引退したからって解決するものでもないらしい。 名を呼んだ張本人、阿部の視線は三橋に全て話すように告げていた。 さながら蛇に睨まれたカエルだ、三橋に逃げ場は、ない。

( やっぱり阿部、ウッゼーーーーーーー )

 だけど、今回ばかりは阿部さまさまだ。心の中でおざなりに感謝する。
 阿部に睨まれた三橋が、下を向きながら語りだした。

 「だ、だって……オ、オレも、何か、自分で、やりたかっ、たん、だ」
 「ひ、人から、やってもらうだけ、じゃなく、オレも自分で……オレ、みんなのおかげで、や、野球前よりもっと、すき、になったから」
 「だから、何が、できるか、考えて、……た、田島君には、いろいろ相談に、乗って、もらって、たんだ」

 そこまで一息で言って、ふっと三橋は息をついた。

 「オレはなんもやってねーよ。これは三橋が自分で考えて、オレにどうかって聞いてきただけなんだから」

 でも、オレに一番に相談してくれてうれしかったぜ、三橋!と、田島は三橋を引き寄せて抱きついた。

 「う、おっ、オレも、た、田島君に、相談して、よ、よかった、よ」

 うひっと顔を赤くしながら三橋は微笑んだ。
 ……なんか面白くない。
単に田島が、一番三橋と遊んでるから話聞く機会もあっただけだろうけど。
三橋がオレたちに黙ってそんな計画立ててたのも。 それを田島にだけ相談したことも。 こうやって田島に抱きつかれて、されるがままになってるのだって。
 オレだって、三橋とは相当仲良くなった気がしてたけど、違ったのかよ。
自分に一番に相談してほしかったなんて。 三橋の成長を喜んでいるのに、何とも複雑な気分だ。
 そう思っていたのはオレだけじゃなかったみたいだけど。

 「うっお、」

 田島、ちょっとごめんと、田島の腕の中にいた三橋を優しく引っ張り出し、向かい合ったのは栄口。

 「ねぇ、三橋。オレ、三橋がオレたちのこと驚かせようとして計画してくれたこと、すっごい嬉しかったよ」

 でもね、と、ふっとさびしそうな顔を見せて。

 「オレにも相談してほしかったな。友達じゃない、オレだって」

 そんな楽しい計画、オレも三橋と立てたかった、と呟いた。
 ちぇ、栄口に先越されちまった。
 そんならオレも。
 「三橋」
 立ち上がって三橋の頭上に顔を持ってくると、右腕を首にまわして上を向かせる。
 三橋はポカンと口をあげて上を向いた。

 「今度そーゆーのやる時は、一番最初にオレに相談しろな!協力してやっからさ」

 ニッと笑って告げる。
 三橋はオレと栄口を交互に見つめながら、

 「う、うんっ!!2人とも、あ、ありが、とぉっ」

 とみるみる顔を綻ばせて、大きくうなずいた。
 3年間でよく見るようになった満面の笑顔。 オレらの原動力。 この笑顔が嫌いな奴なんて、この中には誰一人としていない。
 いい返事+いい笑顔だったからよしよし、と頭をなでてやる。
 こうなるともう止められない。
 止まってた時間が動き出すみたいに、みんないっせいに三橋のそばに詰め寄った。

 「えーーー、いいじゃん、三橋ー一番はオレだかんな、ゲンミツに」
 「三橋ー、オレらだっているからな!いつでも相談してきていんだぞ!」
 「つーか、お前、なんで一番にオレに相談しないんだ!あれだけ言ったのにお前は……」
 「阿部っ、落ち着け!……三橋、とりあえずなんか心臓に悪いからちゃんと思いついたときに言ってくれ、頼む」
 「三橋ぃー、オレだけ仲間外れなんてそんなのないよねー?オレも仲間に入れてくれるでしょー!?」
 「水谷は、なんか相談しても建設的な意見が返ってこなそうだ」
 「酷っ!」
 「まぁまぁ、私も相談してほしいな、マネジだしさ。何かいい意見言えるかもしれないでしょ?」

 とまあ、みんなぎゃいぎゃいと思い思い好き勝手にすきなことを喋ってる。

 「あ……う、と」

 そんな様子を見て、何か言いあぐねていた三橋だったけれど。

 「どした、三橋?言いたいことあんの?」

 促してみると、意を決したように顔を上げて。

 「みっ、みんな、ほ、ほんとうに、ありが、と、う!オ、オレ、みんなのこと、だ、だいすきだ!」

 だってさ。

 そう言って笑った三橋の顔は、今まで見てきた中で一二を争うくらいいい顔してたんだぜ。 つられてこっちも笑顔になっちまうくらいにな。

 さ、散々笑ったから、そろそろ最後の思い出作り、始めっか!




 オマケ
 「いいなーモモカンとシガポ、みんなからメッセージもらえて……」
 「はぁ?」
 「だって、それって形に絶対残るじゃん!なんかそういうのっていいよね、思い出も大事だけどさ」
 「みんな一緒だったって証……みたいな?」
 「そうそう、オレもそういうのほしいなー……」
 「あっ……だった、ら……」
 「どうした、三橋?」
 「…みんな、手紙、みんなに……」
 「おおっ!それ、めちゃくちゃいいアイデアじゃん!冴えてるなー三橋!」
 「……悪いが田島、通訳してくれないか」
 「オレも花井に同じく」
 「ホント田島はずるいよなー」
 「んーと、みんなで一言ずつみんな宛の手紙書きゃいんじゃね?って」
 「この、色紙、みたいにっ……」
 「おおー、それ面白そうじゃん!やろーぜ!」
 「手紙11セット用意して、その人以外の10人がそいつ宛にメッセージ書くってのでどーよ」
 「いいじゃんいいじゃん!一生もんだよ、それ!」
 「どうせだったら、手紙なんだから寄せ書きみたいなのじゃなく、ひとりひとりつなげて手紙っぽくするっていうのは?」
 「おーいいねー、そっちの方がなんか言いたいこと書ける気がする!」
 「よし、じゃあ今日はちょっと厳しいから後で便せん買って卒業式までにみんなで回して書くか」
 「なんかオレかなりわくわくしてきた!すげぇ久し振りだーこんな楽しいの」
 「おい、こっちに気ぃとられて2次落としたとか言うなよ」
 「落としたとか言うのをやめろよ、ビンカンな時期なんだから」
 「くっ……田島に言われたら世話ねぇーーー」
 「プッ……確かにな」




こんな部活いいなぁ らーぜはみんな仲良しがいいなぁー そして、これが西浦の伝統になればいい
2008/11/15 composed by Hal Harumiya


リライト/君で変わっていく10のお題 君と居ると笑わずにいられない