ちょっと信じてみてもいいかな、と思ったのに。
ああ、やっぱりオレたちは猿から進化してきたんだよ。
進化論考えた某偉い人、あんたは正しかったみたい。
神様なんているわけないんだ。
この県立西浦高校で硬式野球部というチームが誕生してから早2ヶ月ちょっと。 その野球部一期生10人は今日も今日とて朝から日が暮れて学校が施錠されるまで一心不乱に野球ボールと戯れている。
毎日毎日飽きもせずよくもまあ。
根っからの野球好き少年たちが集まったこの部は、初めての夏の大会を間近に控えさらにハードな練習を行うようになっていた。 必然的に1日のほとんどを野球部の奴らと共に過ごすこととなる。 出会って2ヶ月しか経っていない彼らだったけれど、他校との練習試合やそれこそ朝から晩までずっと一緒にいるせいで恐ろしく仲がいい。 10人も人間が集まって表だったイザコザがないのは珍しいと思う。
どれぐらい仲がいいかというと、部活終わりに部員全員で近くのコンビニに行き、みんなで買い食いしちゃうくらい仲がいい。 クラスも、誰かが一人ぼっちのクラスになることもなく必ず野球部は2人以上同じクラスだ。(分けた先生、何か見抜いていたのだろうか)
そんな公私ともに仲がいい西浦高校野球部だったが、最近どうも様子が変なのだ。
いや、変というかなんというか、変じゃないといえば変ではないのだが。
いや、もしかしたらあれはいい傾向なのかもしれない。
中学も野球部だったけれど、あんなことは起こらなかったけれど、でももしかしたらいい傾向なのかもしれない。 むしろそうであってくれ、頼む。
もはや一縷の望みに縋って祈り倒している状態だ。
なにがって。
約一名、猫かわいがりされてる部員がいることです先生。
思わず挙手して訴えたくなる。
ちなみに、そいつは決して先生に贔屓されてるわけではなくて。(むしろ監督や顧問はいたって平等)
頭を抱えたいことに、猫かわいがりしてるのは同じチームメイトの奴ら。 そして、チームメイトというからにはそいつは男。 誰が何と言おうと男。というか、どう見たってどっから見たって男にしか見えない、間違いない。 それなのに、チームメイトから可愛がられているうちらのピッチャー。
その名は、三橋廉。
オレからしてみれば、みんなどうして三橋にあんなにかまうのか、心底理解できない。 だって三橋はオレらと同い年、つまり高校一年生、16歳。 高校生だったら自分の面倒ぐらい自分で見られるだろう?
少なくともオレは自分の本分に関わることぐらいは自分で責任取れると思っている。
いくら三橋がこの世の誰よりも卑屈で自分に自信がなくて会話もまともに成り立たないやつだからって、さあ。
部員全員で構い倒さなくても。
阿部は……なんか言わずもがなだし、田島は常に三橋を引っ張っていく自称兄貴兼三橋の通訳その1だし。 栄口はそんな阿部をなだめる係兼三橋の通訳その2だし、泉はなんだかんだ言いつつ暴走する9組の保護者やってるし。 水谷は(阿部に)怒られて落ち込んでる三橋を先陣切って慰める役だし、花井は花井で一番最後に泣いてる三橋に一言声をかけて励ます役だ。 沖は三橋に少しシンパシーらしきものを感じているらしいし、西広はテスト前三橋(と田島)の専属教師となっている。
……こうして考えてみると、なんだなんだオレだけか!?三橋と適当な距離を保っているのって。
改めて考えてみて少し愕然とする。
いや、逆に考えてみるんだ。これはいい傾向なんだ。
チームがピッチャーを中心に回り始めている証拠だ。 やっぱりグラウンドの真ん中、一番目立つそのポジションにいる奴が場の空気を作り出せるほうがいい。 だから、今のこの状態はチームにとってはきっと悪くないんだ。
……悪くないんだろうが。
( オレの精神がおかしくなるような気がする )
心に言い聞かせてみたものの、やっぱりなんか違うよなと思ってしまってオレは頭を抱えてしまった。
なんだ、オレがおかしいのかな?
確かに三橋はすぐ泣くし、三橋の過去のことだってちょっと聞いただけだけど壮絶だ。 もし自分だったら、即行野球なんてやめていたかもしれない。 チームメイトに限りなく邪険にされた記憶は三橋の中で一生消えないものになっているだろうに。
三橋は決して投げることを、野球をやめなかった。
その点は本当に尊敬に値するとオレは思う。
だからなのか、三橋は人の優しさを素直に受け取ることができない。 ひねくれているというわけじゃなくて、オレたちには当たり前のこともいちいち新鮮に驚いてみせる。 どんな小さなことでも少しびくびくしながらすごく嬉しそうに、感動したように。
「オ、オレッ、こん、なこと、して、もらうの、は、初めてだ、からっ」
と目をキラキラとさせるのだ。
その姿が少し悲しくて、でも喜んでくれたことが嬉しくて、もっともっと喜ばせたいと思ってしまう。
当たり前のことをびくびくしないで当たり前に受容できるようになるまで、与え続けてやりたいと。
そう思ってしまうんだろうなー。
そして、そう思っているのは決してオレだけなんかじゃないから冒頭のように猫かわいがりさせてしまうんだろうな。
なんて、オレたちの関係をなんとなく分析してみる。
( まあ、そんな風に思ってもあいつらは行き過ぎだ、間違いない )
三橋のそんな状況を抜きにしてもあいつらは異常だ、やり過ぎだ。 どう見ても、自分たちが三橋をかまいたいからかまってる感じだ。
三橋が嬉しそうだからまあ、いいんだが。
( こんなことを考えている時点で、オレも三橋に、甘い、か? )
思わず苦笑が漏れる。
あいつらのようには絶対ならないけれど、あいつら以下のスキンシップぐらいならアリかな?
それでもあいつらみたく盲目的にはならないけどな。
それにしても。
( ああ、お前らもっと平穏に三橋を愛せないのかよ!! )
オレみたいにさ。
ああ、やっぱりオレたちは猿から進化してきたんだよ。
進化論考えた某偉い人、あんたは正しかったみたい。
神様なんているわけないんだ。
この県立西浦高校で硬式野球部というチームが誕生してから早2ヶ月ちょっと。 その野球部一期生10人は今日も今日とて朝から日が暮れて学校が施錠されるまで一心不乱に野球ボールと戯れている。
毎日毎日飽きもせずよくもまあ。
根っからの野球好き少年たちが集まったこの部は、初めての夏の大会を間近に控えさらにハードな練習を行うようになっていた。 必然的に1日のほとんどを野球部の奴らと共に過ごすこととなる。 出会って2ヶ月しか経っていない彼らだったけれど、他校との練習試合やそれこそ朝から晩までずっと一緒にいるせいで恐ろしく仲がいい。 10人も人間が集まって表だったイザコザがないのは珍しいと思う。
どれぐらい仲がいいかというと、部活終わりに部員全員で近くのコンビニに行き、みんなで買い食いしちゃうくらい仲がいい。 クラスも、誰かが一人ぼっちのクラスになることもなく必ず野球部は2人以上同じクラスだ。(分けた先生、何か見抜いていたのだろうか)
そんな公私ともに仲がいい西浦高校野球部だったが、最近どうも様子が変なのだ。
いや、変というかなんというか、変じゃないといえば変ではないのだが。
いや、もしかしたらあれはいい傾向なのかもしれない。
中学も野球部だったけれど、あんなことは起こらなかったけれど、でももしかしたらいい傾向なのかもしれない。 むしろそうであってくれ、頼む。
もはや一縷の望みに縋って祈り倒している状態だ。
なにがって。
約一名、猫かわいがりされてる部員がいることです先生。
思わず挙手して訴えたくなる。
ちなみに、そいつは決して先生に贔屓されてるわけではなくて。(むしろ監督や顧問はいたって平等)
頭を抱えたいことに、猫かわいがりしてるのは同じチームメイトの奴ら。 そして、チームメイトというからにはそいつは男。 誰が何と言おうと男。というか、どう見たってどっから見たって男にしか見えない、間違いない。 それなのに、チームメイトから可愛がられているうちらのピッチャー。
その名は、三橋廉。
オレからしてみれば、みんなどうして三橋にあんなにかまうのか、心底理解できない。 だって三橋はオレらと同い年、つまり高校一年生、16歳。 高校生だったら自分の面倒ぐらい自分で見られるだろう?
少なくともオレは自分の本分に関わることぐらいは自分で責任取れると思っている。
いくら三橋がこの世の誰よりも卑屈で自分に自信がなくて会話もまともに成り立たないやつだからって、さあ。
部員全員で構い倒さなくても。
阿部は……なんか言わずもがなだし、田島は常に三橋を引っ張っていく自称兄貴兼三橋の通訳その1だし。 栄口はそんな阿部をなだめる係兼三橋の通訳その2だし、泉はなんだかんだ言いつつ暴走する9組の保護者やってるし。 水谷は(阿部に)怒られて落ち込んでる三橋を先陣切って慰める役だし、花井は花井で一番最後に泣いてる三橋に一言声をかけて励ます役だ。 沖は三橋に少しシンパシーらしきものを感じているらしいし、西広はテスト前三橋(と田島)の専属教師となっている。
……こうして考えてみると、なんだなんだオレだけか!?三橋と適当な距離を保っているのって。
改めて考えてみて少し愕然とする。
いや、逆に考えてみるんだ。これはいい傾向なんだ。
チームがピッチャーを中心に回り始めている証拠だ。 やっぱりグラウンドの真ん中、一番目立つそのポジションにいる奴が場の空気を作り出せるほうがいい。 だから、今のこの状態はチームにとってはきっと悪くないんだ。
……悪くないんだろうが。
( オレの精神がおかしくなるような気がする )
心に言い聞かせてみたものの、やっぱりなんか違うよなと思ってしまってオレは頭を抱えてしまった。
なんだ、オレがおかしいのかな?
確かに三橋はすぐ泣くし、三橋の過去のことだってちょっと聞いただけだけど壮絶だ。 もし自分だったら、即行野球なんてやめていたかもしれない。 チームメイトに限りなく邪険にされた記憶は三橋の中で一生消えないものになっているだろうに。
三橋は決して投げることを、野球をやめなかった。
その点は本当に尊敬に値するとオレは思う。
だからなのか、三橋は人の優しさを素直に受け取ることができない。 ひねくれているというわけじゃなくて、オレたちには当たり前のこともいちいち新鮮に驚いてみせる。 どんな小さなことでも少しびくびくしながらすごく嬉しそうに、感動したように。
「オ、オレッ、こん、なこと、して、もらうの、は、初めてだ、からっ」
と目をキラキラとさせるのだ。
その姿が少し悲しくて、でも喜んでくれたことが嬉しくて、もっともっと喜ばせたいと思ってしまう。
当たり前のことをびくびくしないで当たり前に受容できるようになるまで、与え続けてやりたいと。
そう思ってしまうんだろうなー。
そして、そう思っているのは決してオレだけなんかじゃないから冒頭のように猫かわいがりさせてしまうんだろうな。
なんて、オレたちの関係をなんとなく分析してみる。
( まあ、そんな風に思ってもあいつらは行き過ぎだ、間違いない )
三橋のそんな状況を抜きにしてもあいつらは異常だ、やり過ぎだ。 どう見ても、自分たちが三橋をかまいたいからかまってる感じだ。
三橋が嬉しそうだからまあ、いいんだが。
( こんなことを考えている時点で、オレも三橋に、甘い、か? )
思わず苦笑が漏れる。
あいつらのようには絶対ならないけれど、あいつら以下のスキンシップぐらいならアリかな?
それでもあいつらみたく盲目的にはならないけどな。
それにしても。
( ああ、お前らもっと平穏に三橋を愛せないのかよ!! )
オレみたいにさ。
三橋を一番かまいたくて仕方ないのは巣山、という捏造
2008/11/4 composed by Hal Harumiya
はちみつトースト / 平穏をください2008/11/4 composed by Hal Harumiya