君が思ってるよりも 僕は君を想っているんだよ

おっかしーなーーー?
気づいたら目で追ってるなんて。
そんなの、アリ?




 さっき栄口に三橋と仲良くなりたいのか聞かれた。 突然そんな脈絡もないこと聞かれたってことは、栄口には気づかれてるってことだ。
 オレが練習中よく三橋を見てるってことに。
もちろん、自覚はある。 ただ、見てる時はほとんど無意識。 はっと気づくと、三橋を見てる、なんてことがここ最近増えた。
 さすがのオレも、なんでこんなに三橋が気になんだろ?なんて思って。 気づいたときにさんざん悩んだ結果。
 たどり着いた答えは、

 ( オレ、三橋と仲良くなりたいんだ )

 ってことだった。

 自慢じゃないけど、人当たりはいい方だと思ってる。
 人がすきだし、人と話をするのがすきだ。 それなりに空気も読める(と自分では思ってる)し、人と仲良くなるのは得意だ。 中学ではそこそこの人間関係を築いていたし、高校でだって心配してなかった。
 だけど。
 なんでか、三橋とは接点がなかった。
 他の奴らとは結構すぐに打ち解けてしゃべれるようになったのに。 まあ、三橋はああいう性格だし、すぐに慣れるかとも思ってたんだけど。
 あれ?
 特に何の接点もないままもう結構時間、経っちゃってますけど。
 それに、みんないつの間にそんなに三橋と仲良くなったのさ。 スタートラインは同じはずなのに。 いつの間にか、田島と泉は三橋の兄ちゃんやってる。 栄口だって、いつの間に!?ってぐらい三橋と仲良くなっちゃってて。
 え、オレだけ?未だに三橋とうまくコミュニケーション取れないの。
 だってだって、三橋オレと目合わしてくんないんだもん。 他の奴らとは楽しそうにしゃべるのに。笑顔すら見せるのに。(あの阿部とですら、何とか会話してるのに)

 ( もしかしてオレ、嫌われてんのかなー )

 あんまり人から嫌われたことがないオレにとっては、それってかなりショックだ。
 オレは仲良くなりたいのに、三橋がオレのこと嫌ってるんじゃ話しかけづらいじゃん。
 どうしよう、どうしよう。
 そうやってぐるぐる考えながら三橋のことを見てるうちに、栄口に声かけられて冒頭に戻る。
 栄口と話をしてやっとわかった。 オレが三橋のこと、何にもわかってなかったっていうこと。
 うん、確かにオレ、三橋の方からなんかサイン出してくれないかなって待ってたよ。 今までだって、その無意識のサインを見て、(ああ、この人は仲良くなれる)って判断してきてたんだ。 というか、普通はみんな何かしらそんなサイン出すものだと思っていたけど。 全く出さない子だって、そりゃいるよなー。
 三橋からのサイン待ち続けても、そりゃー仲良くなれないよね。

 ( だって三橋は、サイン、出せないんだもんね )

 中学の時、サインを拒絶され続けた痛みは学校を変えたからって無くなるものじゃない。
 怖いよね、怖かったよね。
 オレだったら、怖くて怖くてどうしようもなくなってるよ、きっと。
 仲良くなりたいなら、自分からサイン出してかないといけなかったんだ。
 それが他の奴らとおれとの決定的な違い、か。
 きっとそうやって他のみんなは三橋と仲良くなったんだろうなー。
 みんなはすぐに気づいたんだ。 ちょっと、ずるいよな。 いや、完璧にオレが悪いんだけどさ。
 だから今度からは、オレがサイン出すからさ。 もう、うっざいって言われるまで出すからさ。
 だから、オレにも笑ってよ。
 目、合わせてよ。

 友達に、なろうよ。

( よぉし、まずは三橋んとこ行って、握手でもしてこようかなー? )

 やっぱり仲良くなるにはスキンシップが一番だよね!

 そして、三橋が初めてぎこちない笑みをオレに見せてくれたのは、それから10分後。




水谷がすきだ いい意味で普通の子だよ文貴
2008/11/12 composed by Hal Harumiya


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