逃れられない運命

結局オレも同じ穴の狢ってことになる……のかな?




 いーやっ!!そんなわけない。
 少なくとも、オレが三橋に対して向けてる感情と、阿部が三橋に対して向けてる感情は全然違うと言えると思う。
 あんなに過保護に面倒見きれないよ、オレ。 というか、阿部は行き過ぎだと思うんだ。 三橋は自分と同い年だってこと忘れてるんじゃないかな? 明らかに扱いが、自分より年下に対するそれだ。
 百歩譲ってピッチャーとしての三橋を心配してることにしよう。(実際それすらも疑問に思う) なんで、知らないやつの車に乗るな!とか、注意してんだよ、阿部。
 お前は三橋の保護者か、先生か!
 三橋だって知らないやつの車には乗らないだろ、さすがに。

 ( 一回どっかで顔見たことあるやつの車には……乗っちゃいそうだけどな )

 とか思ったのはオレの中だけに留めておく。
 そんなこと考えてるなんて、阿部には絶対言えないけど。
 だって、阿部普通に声でけぇし、怖えぇだもん。 いくら怒ってないっていっても、あれだけでかい声で「あぁ?」とか言われたら、小心者はビビるにきまってる。 ちなみにオレは三橋が阿部に怒鳴られるの横で聞いていつもビビってるよ。

 ……話が逸れたけど、つまり何が言いたいかっていうと、阿部は三橋に構い過ぎだってことだ。
 そこまでする必要あんのか?ってことも普通にやるし。
 柔軟とかキャッチボールぐらい他のチームメイトと組んだっていいじゃんか。 ただでさえ、三橋は引っ込み思案で、他の奴らとあんまり絡まないのに。 せっかくのコミュニケーションの場を独占すんなよ、阿部。 そんなことしてたら、三橋ホントに阿部としか絡めなくなっちまうぞ。 お前はそれでもいいかもしんねーけど、少なくともオレは嫌だ。 チームの要のピッチャーと意思疎通できないなんて、野球じゃないし。
 まったく、三橋はお前のものじゃないんだぞ!!

 ……と、ここまで考えて、はっと我に帰る。
 ちょっと待て、今の思考、ちょっと危険じゃない? 最初の方はまあ、いいとしても、あとの方、まるで阿部に嫉妬してるような……。
 いーーーーやっ!!だ、断じて違う!!
 これは友情友情! 友達減んのはいやじゃん?
 三橋はオレとなんとなく性格が似てるから、なんかオレがやられてるみたいに感じるだけ!
 そう、それだけ!
 断じて、阿部ばっかり三橋と一緒にいてずりーとかそういうんじゃない!
 というか、阿部阿部言ってるけど、他の奴らだって結構やばいと思う。
 ただ阿部がそっから恐ろしく突出しておかしいだけで、他の奴らだって充分三橋に対しては過保護だ。
 田島なんて、そんなに触る必要ないんじゃね?ってくらいスキンシップしまくり。 栄口はいつの間にか三橋のそばにいて他の奴らへの通訳役やってる。 他にも、泉でしょ?花井でしょ?水谷、巣山……。
 え? ちょっと待って。 もしかして、結構全員なんじゃあ……。
 うわーーーーー、なんかすごい恥ずかしい部活じゃないオレら。 男10人集まってそのうちの1人をかわいがるって、高校生男子のすることじゃないだろう。
 いまさらそんなことを思ってみたものの。

 (でも、もう遅いか)

 なんだかんだ言って、三橋は危なっかしくてほっとけないんだよなぁ……。
みんな過保護になるのもしょうがない気がする。 心配で、面倒みたくなるんだよなー。
 あれは不思議だ。
 結局オレも同じ穴のなんとやらってことですか。 みんなが三橋を大事に思うくらいには、オレだって三橋を大事に思ってるさ。

 だって三橋はオレらのエースなんだから。




沖の口調がわからない
2008/11/12 composed by Hal Harumiya


はちみつトースト / 逃れられない運命