君は俺の

その夜―――

『……ねぇ』

キレイに声がハモった。

「…なに?」
「そっちこそ」

天井を向いていた互いの顔が向かい合う。

「リトが先に声かけてきたんだし」
「いや…ポーランドでしょ。なにか言いたいことあるの?」
「……背中」
「は?」
「だから背中!!!…なにそれ?俺の知らないところで誰にやられたわけ?」

そこまで言われてリトアニアは初めて気づいた。
いつ?いつ見られた?絶対に黙っておこうと思っていたのに。
ああ、そんなことを考えているより目の前のポーランドをなんとかしなくちゃ。

「あっ…ああ、こ、これは……たいしたことじゃないんだ。…俺がちゃんとしなかったからいけなかったんだよ…」
「……ロシア?」

ビクッと思わず体が震えた。図星だった。

「黙ってるってことはそうなん?なんで教えんの?」

非難するような声音にリトアニアはいたたまれなくなった。
言えるわけない。
ポーランドだって分割されて大変だった時期に、ロシアにこき使われてつらいんだよ、なんて。
それぐらいのプライドは持っていた。
いつか独立を回復して、ロシアとも対等に渡り合えるようになって、昔の話を笑って出来るようになったら言おうと思っていた。
昔ロシアに支配されてた時にやられちゃったんだよ、と。
今はもう全然痛くもかゆくもないけどね、と。
なのに。

「へぇ…それをポーランドが言う?」

人の気も知らないで。

「は?意味わからんし」

訝しげにこっちを見るポーランドは本当に意味が分からないといった顔だ。

「今日初めてイタリアを紹介されたけど、俺に教えるチャンスなんていくらでもあったでしょ?なんで教えてくれなかったの」

人見知りの君があんなにも心を許せるくらい仲良くなってた人。
二人の間はとても割り込める空気じゃなかった。
俺の知らない世界をポーランドは生きてきたんだと思った。
それを認めるのはとても寂しくて…悔しいことだった。
だって俺らは生まれた時からお隣さんで、一緒に暮らしてたこともあって。
なんにも知らないことなんかなかったはずなのに。
それなのに。

「俺の知らないことがあるのはイヤだ」

ぼそっとポーランドがつぶやいた言葉。

「リトのことをなんでも知ってるのは当たり前だし」
「俺がリトに隠し事をするのはいいけど、リトが俺に隠し事するのはダメだし」

矢継ぎ早にそう告げられて、上手く判断できない。

「え?え?ちょっ、ちょっと待って」
「リトは、別に俺のことをそんなに知らなくてもいんじゃね?」

は?

「そ、それって……ずるくない?」

というか、すごく理不尽だ。
ポーランドらしい主張といえばらしいけど。

「ずるくないし。その代わり俺がお前のこと全部知ってればそれで問題なくない?」

問題大有りなんですけど。

「ポーランド、やっぱりそれずるいよ……」

そう言ってみたけど。

(その代わり俺がお前のこと全部知ってればそれで問題なくない?)

この言葉がすごく嬉しかったのも事実で。
さっきまで感じていたもやもやした気持ちが段々消えていくのを感じていた。

(あーあ、俺って現金……)




ポーランドの名古屋弁がエセなのはわたしが名古屋ではないところ出身だから
2007/05/03 composed by Hal Harumiya