きっとそれは必然

そこにたたずんている彼はまるで幻のようだった。


それは一瞬の出来事だった。
さわさわと吹いていた風が止み、一瞬の静寂。
ふと視線を上げたところに彼はいた。
俺に気づいてはいないらしく、じっと遠くの方、ある一点だけ見つめていた。
声をかけようとしたがしかし、その声は喉に張り付いて出てこない。
なんとなく、この空間を俺のほうから壊してはいけない、そんな気がした。
そうしてしばらく、どのくらいの時間だったか、彼の方を見ていると。
今度は足元に視線を落とし、何かを見つけるとふわりとやわらかく微笑んだ。

(ドキ)

可愛い。素直にそう思ってしまった自分がいた。

(はあ!?相手は男だぞ!ありえんありえん!)

即座に打ち消してみたが、なぜか胸がさわさわと波打っていた。

(なんでこの俺が!よりによって男なんかにときめかなければならない!というかときめくなんて単語すらいやだ)

しかし、おかしいことにどんなに否定しても自分の視線は今もなお彼にそそがれたまま。
彼はまだ何かを見つめて微笑んでいる。
足元にあるのは何だろう。ここからでは遠くてよく見えない。
しかし彼の優しい微笑みを見る限り、きっと何か微笑ましいものなのだろうと、予想した。

あんな風に俺に微笑んでくれたなら。
またもや浮かんだ有り得ない思考に我ながら頭が痛くなる。

(だからなんでそうなるんだ!これじゃまるで……)

そこまで考えて。

ばち。

目があった。
(ドキッ)

先程よりも一層高い心臓の音。
そして、しばらく見つめあった後。

(イギリスさん)

そう言って、手を顔の横まで持ち上げ、さっきよりも一段と美しく微笑んだ、
気がした。


ああ、もう否定しようがないじゃないか。
そんなに美しく微笑まれては、抵抗のしようもない。

(くそ……っ、反則だ)

悪態をついてみても、内のざわめきは消えることがなく。
ずっとさわさわと音を立てたまま。

きっとこの音が消えることはもうないだろう。


俺はどうやら恋に堕ちたらしい。




たぶん英→日になる瞬間を書きたかったんだ
2007/05/07 composed by Hal Harumiya