まるで、小さな小虫のような

私はもう死んだ身。
この世に生を享けることはもうない。
だが、このように怨霊となって魂を肉体に縛っている間、それは廻ることはない。
とどまった存在。陰の存在。……ありうべからざる存在。

何度も願った。
『この世から消えてしまいたい』と。
安らぎを得たいと。
ただ人を物のように殺すのではなく。
我を忘れ、己の本能のままに生きるのではなく。
ただ心安らかに転生のときを待つ。
廻り廻って、また人としての生を得る。
そのような存在になりたいと、何度祈ったことだろう。
しかしそれは叶えられず、私は怨霊としての本能に従って牙をむく。
現状はこれだ。
苦しい、こんなことを望んでいるのではない、救われたい。
そう思っていた。
そして、彼女に逢った。

春の京で私を追っ手から救ってくれた神子。
神子はあのとき私のことを知っているようだった。
弾正少弼殿に笛を返した私の気持ちを悲しいと言い当てた神子。
自分でも気づかなかった気持ちを代弁してくれた心優しい人。
そして、三草山で私はまた助けられた。
源氏の攻撃を受けて倒れていた私を助けてくれた。
そこで彼女は八尺瓊勾玉のかけらを私に渡して。

「これはあなたがもっていたほうがいいものだと思うから」

と笑って言った。
私の正体を知っていても変わることなく接してくれた神子。
彼女の力を見、そして私は源氏方についた。平家を裏切った。
< そんな私を彼女はやっぱり笑顔で、

「じゃあこれからはわたしたちの仲間ですね」

と迎えてくれた。
どこまでも優しく温かい神子。
本当はその温かさに埋もれてしまいたかった。
縋りつきたかった。
そして私を、この穢れた身を地へと還してほしかった。
苦しみから、解放してほしかった。
神子を危険にさらすから私は自分を封印してくれと頼んだのではない。
私の利己的な思いからなのだ。
この永久的な苦しみから私を解放できるのは神子だけだ。
数々の怨霊を倒し、封印してくるたびに頭をかすめる思い。

( 私も彼らのように還ることができたなら )

でも、時が経ってそれと同時に強く願う思いができた。
それは『神子と共に生きたい』という願い。
いつからこんなことを思うようになったかは私にも分からない。
だが、この思いはしっかりと胸に根を張っていた。
怨霊のみで何を願う!と自分を叱咤したこともある、それこそ何度も。
しかし、優しく笑いかけてくれるあなたを見るたびこれが強くなっていくのも事実。
あなたを傷つけたくない、大事にしたい、守りたい。
どんどん強くなっていく想いのうちに、私は自分の恋心を自覚した。
陰のものは陽のものに惹かれる。
私はあなたのその陽の気に、変えようとする強い思い、進む力に惹かれた。
あなたは陽の化身、あなたは私には眩しすぎる。
でも、惹かれずにはいられない。
そうそれは、あたかも小さな小虫が炎の光に引き寄せられていくかのごとく。




あつんを幸せにしてあげたいのにできないジレンマ
2005/03/15 composed by Hal Harumiya