一緒に

「神子……?」

呼び掛けても答えない。

「神子?」

もう一度呼び掛ける。それでも彼女は目を覚まさない。
すぅすぅ、と規則正しい寝息が聞こえてくる。
あぁ、話の途中で寝てしまったのか。
私は自然と微笑みが零れるのを感じた。
最近休まる時がないくらい神子は戦い通しだったから、疲れてしまうのも無理はない。
木にもたれるようにして眠っている神子は、こうして見ればただの少女のように幼くあどけない。
しかしその実はこの怨霊にまみれた戦乱の世の、一条の光なのだ。
異界からこの世界を救うために召喚された少女。
本来ならばこの世界にはいない存在。
同じ言葉で表わされる自分との違いに自嘲する。
同じ言葉なのに一方は貴ばれ、一方は疎まれる。

いや。
そもそも自分と彼女を比べること自体が誤った考えなのだ。
そんな思いを持った自分を叱咤する。
しかし、彼女を見ているとどうしてもそんな考えが浮かんでくる。
どうしてこうも違うのか、と。
なんでこんなに決まりきったことで悩むのか。
結論はもうとっくに自分に用意されているのに、まだ頭を廻る。
頭ではわかっているのに心がついていかない。
そして、風に吹かれた彼女の整った寝顔を見て、気付く。

あぁ。
自分は彼女と対等でありたかった、のだと。
同じ目線で、同じ位置に立ちたかったのだ、と。

〈 身の程知らずな…… 〉

自分が神子と同じになどなれないとわかっているのに。
なんて浅はかな願い、想い。
彼女と同じ時空を過ごしたいなど。
彼女とずっと一緒にいたいなど。
考えるだけ無駄だとわかっているのに。

「……も…さ……」
「え?」

思わず聞き返してしまった。

( ね、寝言か…… )

大きく跳ねる心臓。
よく聞こえなかったが、一瞬名前を呼ばれたかと思った。

「あ……もり…さ……」

今度ははっきりと呼ばれたのがわかった。

「……神子?」

寝ているのがわかっても問い掛けてしまう。
返事を期待してしまう。
しかしやはり返事はない。

「神子?」

今度は少し強めに尋ねる。彼女の睫毛が微かに震えた。
そうして。

「あ…もりさ……、ず…っと…一…緒に……」

いて……、と聞こえたような気がした。
私は自分の耳を疑った。
空耳に違いないと思った。そう聞きたい自分の頭がそう思わせているだけなのだと。
普段は意識しない首の脈がはっきりと打っているのがわかる。
強く彼女を意識して、体が震える。
いっそこのまま己の腕に掻き抱きたい、とまで。
彼女を切ないくらい欲していた。
すきだ、すきだ、すきだ。頭で何度も反芻する言葉。

「す…きだ……」

知らず口から零れる。
この感情を知ってから何度も口にしそうになった。
こうやって彼女と一緒にいる回数が増えたのならなおさら。
だが伝えることなどとても出来なかった。
聞こえないことをいいことにこうやって眠りの奥にいる彼女に語りかけるので精一杯で。
想いを伝える資格など私にはない。
彼女と私は交わることがないから。
いくら私が願っても、欲しても叶わない。
いや、叶わないからこんなに切望するのだろうか?
こんなに苦しいくらい彼女を愛しいと思うのだろうか?
答えはでない。
ただ私に出来るのは。

「私も…あなたと一緒にいたい……ずっと……」

そう願うことだけ。




あっつんは純粋なイメージですけど、こんな風に内に熱いものを秘めていてほしい
2005/05/07 composed by Hal Harumiya