あ、まただ。
今日はこれで3回目。
ときおりサザキは今みたいな悲しくて切ない表情を一瞬することがある。 眉根をきつく寄せて、遠くを見るような眼を、することがある。 本当に一瞬だから、注意してみなければわからないほど。
いつも明るくてムードメーカーのサザキがあんな表情をすることはすごく珍しくて。 その時何を考えているか知りたくなって。 でも、なんとなく聞いちゃいけないことなんだろうと思っていたから今までは聞けなかったのだけれど。
( 今日は……多いな… )
いつもは1回かそんな表情すら見せず、ィヤーハァー!と豪快に笑って宴を開いては羽目を外している。
でも今日は。
今日は一日中上の空で、明るくふるまっていても相手の話なんてほとんど聞いていないことがわかってしまった。
どうしてもどうしても気になってしまったから思わず聞いてしまった。
「サザキ、元気ないね。どうしたの?」と。
そうしたら彼は「は!?」と、一際大きな声をあげてこちらを見た。 そうしてわたしの顔をしげしげと見つめた後、今度は大きくため息をついた。
「いやー姫さんにはかなわねぇーなー、なんでも見抜いちまうんだもん。それ、アンタの特技だぜ?」
サザキは大げさに苦笑した。
「話、逸らそうとしてるでしょ?」
小声でそう呟くと、図星だったのか彼はびくっと肩を震わせ、もう一度わたしを見つめる。
「……」
何を言おうか思案している顔だった。
でも、わたしだってサザキが心配なのだ。 なんであんなに切ない顔をしていたの? わたしじゃ、相談相手にもなれないかな?
わたしが真剣に話をしようとしているのがわかったのか、サザキはもう一度息をついた。
そうしてぽつりと語りだす。
「いや……村の……こと、思い出しちまってさー……」
元気にやっているかと。 稼ぎ頭のオレたちが勘当されたとはいえ村を抜けて、生活はできてんのかと。
「普段はあんまり考えないのに、こうしてぼーっとする時間があると、思い出しちまうんだよなー……阿蘇」
サザキは帰りたいのだろうか?自分の生まれ育った村に。
( 帰りたくなったなら、いつでも帰っていいのよ )
一瞬、頭をかすめたけれど、口からは出なかった。 だってそれは、サザキとの別れを意味することになるから。 想像しただけで、それはつらくて。 だから代わりにこぼれた言葉は。
「……村の人を、橿原に招待したらどうかな?」
それを聞いたサザキは、一瞬驚きに目を丸くしたけれど、すぐふっと息を吐いて寂しそうな表情になった。
「姫さん、ありがてぇ申し出だけどそれは無理だ。……オレたちは日向の一族だからな」
その言葉に今度はわたしがはっとする番だった。
日向の一族。
遙か昔、最初の神子につき従い、神子が天に昇ると中つ国に反旗を翻した民族。 翼の生えた異形の一族。
「オレたちは姫さんの仲間だから、まだマシな扱い受けてるけどよ、実際村の奴らは耐えられないぜ」
そこまで言ってから、サザキはまずいことを言ったと思ったのか、くそっと毒づき、頭をかきむしった。
そんなに根深い差別だったなんて……。
もちろん差別があることは知っていたし、サザキたちが何度もそんな言葉を浴びせられるのを間近で見ては来ていたけど。 それ以上の差別なの?
「だ、だからさ、姫さんの気持ちだけ受け取っておくわ。ありがとな、心配してくれて」
こんな風に気を遣ってくれるサザキに、わたしは何もしてあげられないの?
異形だからって、中つ国に反旗を翻したからって、そんなのただの言い訳だ。
それならなおさら。
「ううん、絶対いつか村の人を橿原に招待しよう!」
「ひ、姫さん?だから無理だって……」
< サザキの言葉を遮って続ける。
「いつか。そんなくだらない差別なんか無くしてみせる。わたしがこの国の王でいる間に」
それは、王であるわたしにしかできないことだから。
だからサザキ。 その間だけは。
「わたしが……わたしがサザキの話ならいくらでも聞くから。だから……一人で悩まないで」
サザキの悲しみも苦しみも半分背負ってあげる。
「なんでも受け止めるわ。あなたのこと」
どんな些細なことでもいいのだ。 あなたが話して楽になれるのであれば、わたしはいくらでもあなたのそばにいるし、あなたを笑顔にしてあげたい。 あなたの顔を曇らせる原因なんて、わたしが払ってあげるから。
そう言うと、サザキはふっと困ったように笑って、そっとわたしを抱きしめてくれた。
「ありがとな、姫さん。……アンタのそういうとこ、オレぁ本当に気に入ってんぜ」
抱きしめられてるから彼がどんな顔をしているかはわからないけれど、きっとわたしのだいすきな優しい笑顔なんだろうと思った。
ときおりサザキは今みたいな悲しくて切ない表情を一瞬することがある。 眉根をきつく寄せて、遠くを見るような眼を、することがある。 本当に一瞬だから、注意してみなければわからないほど。
いつも明るくてムードメーカーのサザキがあんな表情をすることはすごく珍しくて。 その時何を考えているか知りたくなって。 でも、なんとなく聞いちゃいけないことなんだろうと思っていたから今までは聞けなかったのだけれど。
( 今日は……多いな… )
いつもは1回かそんな表情すら見せず、ィヤーハァー!と豪快に笑って宴を開いては羽目を外している。
でも今日は。
今日は一日中上の空で、明るくふるまっていても相手の話なんてほとんど聞いていないことがわかってしまった。
どうしてもどうしても気になってしまったから思わず聞いてしまった。
「サザキ、元気ないね。どうしたの?」と。
そうしたら彼は「は!?」と、一際大きな声をあげてこちらを見た。 そうしてわたしの顔をしげしげと見つめた後、今度は大きくため息をついた。
「いやー姫さんにはかなわねぇーなー、なんでも見抜いちまうんだもん。それ、アンタの特技だぜ?」
サザキは大げさに苦笑した。
「話、逸らそうとしてるでしょ?」
小声でそう呟くと、図星だったのか彼はびくっと肩を震わせ、もう一度わたしを見つめる。
「……」
何を言おうか思案している顔だった。
でも、わたしだってサザキが心配なのだ。 なんであんなに切ない顔をしていたの? わたしじゃ、相談相手にもなれないかな?
わたしが真剣に話をしようとしているのがわかったのか、サザキはもう一度息をついた。
そうしてぽつりと語りだす。
「いや……村の……こと、思い出しちまってさー……」
元気にやっているかと。 稼ぎ頭のオレたちが勘当されたとはいえ村を抜けて、生活はできてんのかと。
「普段はあんまり考えないのに、こうしてぼーっとする時間があると、思い出しちまうんだよなー……阿蘇」
サザキは帰りたいのだろうか?自分の生まれ育った村に。
( 帰りたくなったなら、いつでも帰っていいのよ )
一瞬、頭をかすめたけれど、口からは出なかった。 だってそれは、サザキとの別れを意味することになるから。 想像しただけで、それはつらくて。 だから代わりにこぼれた言葉は。
「……村の人を、橿原に招待したらどうかな?」
それを聞いたサザキは、一瞬驚きに目を丸くしたけれど、すぐふっと息を吐いて寂しそうな表情になった。
「姫さん、ありがてぇ申し出だけどそれは無理だ。……オレたちは日向の一族だからな」
その言葉に今度はわたしがはっとする番だった。
日向の一族。
遙か昔、最初の神子につき従い、神子が天に昇ると中つ国に反旗を翻した民族。 翼の生えた異形の一族。
「オレたちは姫さんの仲間だから、まだマシな扱い受けてるけどよ、実際村の奴らは耐えられないぜ」
そこまで言ってから、サザキはまずいことを言ったと思ったのか、くそっと毒づき、頭をかきむしった。
そんなに根深い差別だったなんて……。
もちろん差別があることは知っていたし、サザキたちが何度もそんな言葉を浴びせられるのを間近で見ては来ていたけど。 それ以上の差別なの?
「だ、だからさ、姫さんの気持ちだけ受け取っておくわ。ありがとな、心配してくれて」
こんな風に気を遣ってくれるサザキに、わたしは何もしてあげられないの?
異形だからって、中つ国に反旗を翻したからって、そんなのただの言い訳だ。
それならなおさら。
「ううん、絶対いつか村の人を橿原に招待しよう!」
「ひ、姫さん?だから無理だって……」
< サザキの言葉を遮って続ける。
「いつか。そんなくだらない差別なんか無くしてみせる。わたしがこの国の王でいる間に」
それは、王であるわたしにしかできないことだから。
だからサザキ。 その間だけは。
「わたしが……わたしがサザキの話ならいくらでも聞くから。だから……一人で悩まないで」
サザキの悲しみも苦しみも半分背負ってあげる。
「なんでも受け止めるわ。あなたのこと」
どんな些細なことでもいいのだ。 あなたが話して楽になれるのであれば、わたしはいくらでもあなたのそばにいるし、あなたを笑顔にしてあげたい。 あなたの顔を曇らせる原因なんて、わたしが払ってあげるから。
そう言うと、サザキはふっと困ったように笑って、そっとわたしを抱きしめてくれた。
「ありがとな、姫さん。……アンタのそういうとこ、オレぁ本当に気に入ってんぜ」
抱きしめられてるから彼がどんな顔をしているかはわからないけれど、きっとわたしのだいすきな優しい笑顔なんだろうと思った。
サザキルートはお互いの気持ちがとてもいい感じで見えた
2008/07/16 composed by Hal Harumiya
Lacrima / 悲しみも苦しみも半分背負ってあげる2008/07/16 composed by Hal Harumiya