かげのぞ

はっ。
っと目が覚めて、ガバッと起き上がる。

ドクドク、ドクドク。

心臓が大きく音を立てて。

「っ……はぁっ……はぁ……」

息が荒い。手足もなんだか痺れている感じがして。

「…っ……はぁ」

頭もぼぅっとしてうまく働かない。
額に手をやると、じっとりと嫌な汗の感触がした。

「はぁ……ふぅ……」

呼吸を落ち着けるため、深呼吸を繰り返す。

いやな、夢を見た。
今となっては、もう何年も前の。
まだ、あの世界にいたころの夢。
はっと思い出したように額をぬぐった手を見下ろすと、確かにそれは汗で。
手をぬらす透明な液体に胸を撫で下ろす。

( 赤く、染まっていなくてよかった…… )

心からそう思った。
もうあの頃には戻りたくない。
簡単に人を殺めていたあの頃には決して。
こっちの世界で手に入れた幸せを手放したくない。

「……ん」

鼻から漏れた声に横を見ると、何よりも大事な彼女が幸せそうな顔で眠っていた。
彼女を手放すことも絶対に。
そう思って、長い髪に手を伸ばす。
撫でると彼女の体から力が抜けた。

人をいとおしいと思う気持ちは際限がないのだ、ということを、オレはこのとき初めて知った。




望美が景時の癒しになればいい