かげのぞ

「景時さん、何か悩みごとでもあるんですか?」

突然頭上から降ってきた声。
驚いて顔を上げると、そこには少し眉根を寄せた望美ちゃんが立っていた。
なんで?

「や、やだなぁー望美ちゃん。いつからそこにいたの?」

人が悪いなぁーと言いながら、動揺を悟られまいと努めて明るくいつもどおりに振舞う。

「さっきからいました!景時さん、呼んでも全然気づかなかったんですよ?」

あははー、そ、そうなんだ……。
本当に全然気づかなかった。

「そ、そんなにぼけっとしてたかな、オレ。軍奉行として失格だなー」

あはは、と笑ってみたものの。

「景時さん、この間からなんかおかしいですよ?まるでわたしを避けているみたい」

ぐさり、と言葉が胸に突き刺さる。
図星を指されるとはまさにこのことだった。

「や、やだなぁー、そんなことないよ?ほら現にこうして一緒に喋ってるじゃない」

取り繕ってみたが、勘の鋭い望美ちゃんにどこまで通用するか。
そして。
「ごまかさないで下さい。この間もらった書状を読んだときから景時さん、変です」

ああ、やっぱりごまかされてくれないか。
予想通りとはいえ、そこまで見抜いていた彼女はやはり只者ではない。
まさか気づかれていたなんて。
誰にも気づかれていないと思っていたのに。
いや、現に他の人たちは気づいていない。
彼女だけだ、オレの変化に気づいたのは。

「大丈夫。オレは望美ちゃんを避けてもいないし、何にも悩んでなんかいないよ?」

そう言うと、一瞬口を開きかけた彼女は少し考えて口をつぐんだ。
何か言っても無駄だ、と悟ったのだろう。
オレはあの書状の内容を君に漏らすつもりは全くないから。
そうして一言だけ。

「一人で悩まないで下さい」

そう言って彼女はきびすを返した。

「ふふっ」

乾いた笑いが漏れる。
あんなに可愛いことを言ってくれる彼女を。
この手で葬らなければならないなんて。


あぁ、運命はなんて残酷なんだろう。




暗い過去を持つ景時がすk



百人一首で100のお題 040 「何か悩んでるの?」って言われてしまうなんて。/忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は 物や思ふと 人の問ふまで