なぎちひ

「今日の夕飯何?」

いつもの帰り道、いつも寄るスーパーへ向かう途中、いつも通り僕は隣を歩く彼女に尋ねた。

いつもだったら、ここで彼女は眼を見開きながら「今日の当番は那岐でしょ!?」といつも通りのセリフを言うはずなのに。

「……」

今日に限ってはそれがなかった。
反応がないことが意外で彼女に眼をやると、視線を斜め下に向け、心ここにあらず。
何か考え事をしているようだった。

「千尋?」

名前を軽く呼んでみても反応なし。

「千尋?」

今度は少し強めに声を出したけれど、全然こちらを見ない。

( 何にそんなに気を取られてるんだか…… )

まあ、大方の予想はつくけれど、それでもなんとなく千尋が無反応なのは癪に障る。
千尋はおせっかい焼きなくらいがちょうどいい。
笑ってくれるほうが、安心する。

だから。

「千尋。スカート、めくれてるよ」

なんていうちょっとした冗談を耳元で囁いてやった。
これで気づかないようじゃ女の子としてどうなの?とか、考えていたのだけれど、その点は問題なく女の子だったらしく、 彼女は慌てて後ろのスカートを押さえて挙動不審もいいところにきょろきょろとあたりを見渡していた。
そうして、自分の格好に特に問題がないと確認すると、今度は顔にうっすら朱を走らせ、くるりとこちらに向き直った。

「那岐!!!ス、スカートなんてめくれてないじゃん!!」

どういうことよ!と、彼女はものすごい剣幕で怒り始める。
でも、こんなのいつものことで。
僕は、いつも通りの言葉を彼女に返す。

「ぼーっと道の真ん中で考え事をしてる千尋が悪いんだろ?」

そう言うと千尋は、だからってそんな冗談言うことない、とか、那岐のエッチだとかまくし立てていたけれど。
僕はいつも通り全然気にも留めずにまた帰り道を歩き始めた。

「で?今日の夕飯は何にするか決まったの?」

やっといつも通りの僕たち。
やっぱり何も変わらないのが、一番いい。




千尋は今日の夕飯について考えていた模様