サザちひ

「ひーめさん!今ヒマかい?」

天鳥船の堅庭で風に当たっていたわたしは、突然上から降ってきた声に驚いた。

「サ、サザキ……はぁーびっくりした、驚かせないでよ」

そういえば、上からの可能性もないことはないんだったわ、と改めて心に刻む。
ここ、豊芦原ではこんなことは当たり前の世界。
翼の生えた民族もいれば、獣人の民族もいる。
まるで、おとぎ話のようなこの世界。
俄かには信じられなくても、ここが私の生まれた故郷。
12までをここで過ごしてきたのだから。

それなのに。
なんだろう、この違和感は。
自分の生まれた世界なのに、馴染めていないような、いつまでたってもこの世界の客人のような感覚は。

「姫さん?」

名を呼ばれてはっとした。
サザキを見上げながらそんなことを考えていたようだ。

「どうしたんだ姫さん?元気、ないみたいだぜ」

ふわりと堅庭に降り立った彼は、心配そうに眉根を寄せている。

「ご、ごめんね?何でもないの。ただ……ぼーっとしちゃって。疲れてるのかな、わたし」

心配させまいと笑みを浮かべようとしたけれど、どうやら失敗だったようだ。
サザキの表情がちょっと険しくなる。

「姫さん……あんたはいろいろ考えすぎなんだよ」
「で、でも……っ」
「そして、内にため込みすぎだ。確かに?王族はそうあるべきかもしれない」

けどさ、といったん言葉を切る。

「オレは、そんなこと望んじゃいない。ただの「芦原千尋」っていうあんたも見てみたいさ」

それは、この船に乗ってるあんたの周りにいる奴らもおんなじなんじゃねぇのかい?
静かにサザキの声が染みる。
本当に?姫じゃなくてもいいの?
姫以外のわたしをみんな受け入れてくれるの?
ただの「芦原千尋」として生きていた5年間を捨てなくても、いいの?

「ははっ、目からうろこみたいな顔だな。大丈夫、あんたはみんなに好かれてる」

サザキはやさしく笑って、頭をポンポンとなでてくれた。
くすぐったくて、嬉しくて、安心してしまって、ジンと目の奥が熱くなる。

「サザキ……ありがとう」

そう言って、わたしはなんとか笑みらしきものを浮かべることができた。

「やっと笑ったな。言っただろ?つらい時はオレが笑わせてやるって」




千尋はサザキの考えてなさそうな考えてるところに癒されればよい