くろのぞ

「ねぇ、九郎さんの髪って……」

その言葉に俺は無意識のうちに顔をしかめる。

「分かってる。ひどいくせ毛だって言いたいんだろ!?もう自覚済みだからみなまで言わなくていい」

少し強い口調でそういうと、あいつはちょっとむっとしてほほを膨らませる。

「なんですか、その言い方。そういう意味じゃないのに」

じゃあ、どういう意味だったんだ、と尋ねると、彼女はますます機嫌を悪くして。

「もういいです!!人の話を素直に聞けない九郎さんなんか知りません!」

そう言って、ふいっとそっぽを向いてしまった。
なんなんだ。そんなに怒ることだったのか?
俺だって、好きでこんなにこの髪を気にするようになったわけじゃないぞ!
周りが…特に京の貴族たちが…何かにつけてこの髪のことで文句を言っていたから……。
それで…お前も……そんなこと言うのかと…ちょっと怖かっただけだ。
そのことを思い出して、ふと思った。
そして自嘲する。俺もまだまだ幼いものだ、と。

( こいつは……望美は京の噂好きで悪口好きなあの貴族たちとは違うのにな )

分かっていたのに、怖かったんだ。お前に…否定されることが。
それがたとえ髪のことでも。
まるで俺自身を否定されているような気持ちになるから。
だから先に攻撃して壁を作った。
そんな必要なんてなかったのに。
謝らなければ。
そう思って俺は彼女を呼んだ。

「……なんですか?」

声音は不機嫌そのもの。それでも、無視されなかっただけマシというものだ。

「望美…その、す、すまなかった。ちょっと考えすぎていたようだ、俺は」

お前は人が気にしているところを掘り下げるようなやつじゃないのに、と俺が頭を下げると、彼女はくすっと笑って。

「…もういいです。九郎さんが素直に謝るなんて珍しいし?」

と言った。

「おい!からかうのはよせ!」

そう言っても、彼女は笑うことをやめない。くそっ、やっぱり謝るんじゃなかった。

「そうそう、九郎さん、さっき言おうとしたことなんですけど…」
「あ?なんだ?」

彼女はその顔を微笑みから大輪の花のような笑顔に変えて。

「九郎さんの髪って、とってもあったかそうですね」

わたしその髪すっごくすきです、って言いたかったんです、と。

「っな……」

予想外の言葉に顔が真っ赤になっていくのがわかる。
あいかわらず扱いが面倒くさいこの髪。
だがそうだな……。おまえがこの髪をすきだと言ってくれるなら。
こんな髪に生まれて、よかったかもしれない。




九郎の髪がじゃまとか思っているのはもしかしたらわt