くろのぞ

「望美……すきだぜ?」

ヒノエがあいつにそう言うのも。

「望美さん……あなたが心配なんです。あなたはたった一人しかいないんだから」

弁慶が苦しそうにそう言うのも。
俺は見てたから。
なにか俺も気の利いた言葉を告げれればいいのだけど。
そうすれば。

「…………」

さっきから喋らない望美に笑顔が戻ってくるだろうか?
本当に些細なことでまたケンカして。
本当はそんなつもりなんか毛頭ないのに。
どうしてうまくいかない?
どうしたら望美を悲しませない?
どうしたら……。
そんなことばかり考えて。

「の、望美……」

呼びかけると望美は不安そうに顔を上げた。
謝ってしまいたいのに。
本当はケンカなんかするつもりなかったって。
言いたいのに。

「あっ……っ」

言えない。
肝心なときに躊躇してしまうこの口が恨めしい。

「九郎さん……」

目の前の彼女の瞳が大きく揺れる。
どうしたらいい?
何度も繰り返す問いかけの答えは、けれどもすでに出ていて。
けれどその一言がどうしても踏み出せない。
簡単にいえないその言葉。

お前が……大事なんだ、って。




ツンデレ九郎