キス

口づけをしよう。
甘く甘く。
そして君に、自分に、過去に、未来に誓おう。
必ず君を幸せにする、と。
もう決して君を裏切ったりしない。
もう決して君に嘘をつかない。
もう決して君を泣かせたりしない、と。




「いろんなことがありましたね」

隣に立っている彼女がそう言ってにっこりと微笑んだ。
顔が純白のヴェールに隠れていても、その微笑みが隠れてしまうということはない。
それどころか、より一層美しく輝いているようだ。
彼女と出会い、ともに戦い、裏切り、また彼女のところへ戻った時の記憶が走馬灯のように走り抜けていく。
向こうの世界で起こった夢のような現実。
数年経った今でもはっきりと当時のことを思い出すことができる。
生きるか死ぬか、残るか滅びるか。
そんな全てをかけた戦いの果てにオレはここにいる。
彼女の――春日望美という女性の隣に。

「……そうだね」

一歩彼女に近づきながらそう答え、オレは彼女の顔を覆っているヴェールをそっと上げた。
彼女は今日世界で一番美しかった。

「緊張してるんですか？」

小声で彼女がそう言う。

「ええっ、オレ緊張してるように見える？」

そう問うと、

「だってヴェール上げるときの手、ちょっと震えていたから」

と、彼女は笑みをこぼした。
ああ、なんだ。そのことか。

「緊張していたんじゃないんだ」

そう告げると、周りにそれとは分からないように目を瞠った彼女。
そのことに苦笑いしつつ、さらに彼女との距離をつめる。

「じゃあ……なんで？」

さらに小声でそう問う彼女。
それはね？
彼女の細い肩に手を置き顔を傾けると、大きく開かれた彼女の瞳がゆっくりと閉じられ。
遠くで列席者のため息が聞こえたような気がした。

（　君のことをすごく愛してるって、改めて思ったからだよ　）

なんてことは、なんとなく恥ずかしくて言えないけれど。
この口づけが答えの代わりになるように。
今この瞬間、君に永遠の愛を誓おう。




口づけをしよう。
甘く甘く。
そして君に、自分に、過去に、未来に誓おう。
必ず君を幸せにする、と。
もう決して君を裏切ったりしない。
もう決して君に嘘をつかない。
もう決して君を泣かせたりしない、と。

オレの全てを、君に捧げる。