「望美ってどういう意味なんだ?」

何気なくその言葉を聞いたのは、会話の糸口を探していたとき。
たまたまその日はお互いに部活がなくて、帰り道でばったり会った。
そして、そのまま流れで一緒に帰ることになって、だらだらと適当な話をして。
ふと途切れた会話。
占める沈黙。自然と歩くリズムが速くなる。
でも、まだ家には着いてほしくはなくて。
何か、話の内容を、と頭を回転させた結果。
先の発言に至る。
まったくらしくない。
望美はというと、一瞬驚いたように目を見開くと、また笑顔を見せた。

「ん〜、それ、わたしもお父さんに聞いてみたんだけど、満月のことらしいよ」
「満月?」

へぇとため息を漏らす。

「うん、綺麗なまんまるいお月さま、みたいに綺麗になれ、ってことじゃないかなぁ」

ちょっとムリあるけど、と望美は苦笑いをした。
満月か……。
一遍の曇りもない完璧な円。
そんな美しい星の名をもらった彼女もまた、大人になるにつれ綺麗になっていく。
不意に。
隣を歩く彼女が、すごく遠い存在に思えて。
胸に鈍い痛みが走った。
とたんに感じる眩暈にも似た感覚。

「……将臣くん?」

名を呼ぶ声にはっとすると、足を止めていたのか数歩先から望美が不思議そうにこちらを見つめていた。

「あ…あぁ……悪い。今行く」

考えすぎだ。軽く頭を振る。
今一番こいつの近くにいるのは俺で。
それをキープすればいいだけのこと。他のやつが来ても邪魔すればいい。

「将臣くんどうしたの?」

また、隣に並んだ望美が心配そうにこちらを見る。

( 譲らねぇよ、誰にも )

「い〜や、確かに丸いな、と思って」

と、望美の頬をむにっとつまむ。

「将臣くんっっ!!!」

望美が叫ぶのと同時に俺は走り出した。
今はまだこのままで。




結構気に入っている話 幼馴染っていいなぁ