体温

「さむっ」

思わずそうつぶやいてしまったある冬の朝。
ふと、横に目を向けると、昨晩はしっかり隣にあったぬくもりが今はなく。
朝餉を作るために起きたのは分かっているが、先ほど感じた寒さが余計に増した気がした。
褥から出たくない気持ちを押し殺してもぞもぞとそこからはい出ると、身を切るような寒さと出会い、体がぶるっと震えた。
ふすまを軽く開けると、キンと凍るような空気と、冬特有の澄んだ匂い。
そして、眼前に広がる一面の銀世界に思わずため息が漏れた。
ここ熊野でこんなに雪が降るのは本当に珍しいことだから。

「そりゃ寒いだろ……」

そんな言葉を漏らせば、動かした口から体温が奪われていくようで。
慌てて口をふさいだ。
寒い寒いと思いながら思い出すのは彼女のこと。
昨夜感じたあのぬくもりが目覚めたとき隣にあればよかったのに。
そうしたら、こんなに寒く感じなかっただろうに。
そんなことを思った瞬間。
パタパタと軽やかな足音が聞こえてきて。

「あれ?ヒノエくん、もう起きてたの?」

と驚いたような顔で告げられた。
ああ、と返すと、彼女は外をちらりと見て、そして笑って、積もったんだよ、寒いよね、と身を震わす仕草をした。
でも、オレにはちっとも寒そうには見えなくて。
むしろ雪が降って喜んでるんじゃないか?
その大きな瞳がきらきらと輝いているから。
それがオレにはおもしろくなくて。
オレだって雪がキライなわけじゃないけれど、寒がっているのがオレだけなんて、イヤで。

「きゃっ……」

いじわるしてやろうと、望美の腕を引っ張って、オレの中に包み込んでしまう。
みるみるうちに彼女の体温が布越しににでも上がっていくのがわかって。
少し気分がよくなった。

感じる体温に、昨日の余韻を思い起こして温かくなる冬の朝。




事後すみません