君と重ねる

キーィン。 ぱんっ。

「……つっ」
「神子っ……!」

はじかれるような音がして、バッと顔を向けると、彼女の顔が苦痛に歪んでいた。
手にしていた剣ははじかれ、彼女自身は左手で右手をかばうようにして押さえている。

「っ大丈夫ですからっ、このくらい」

そう言って手を振ると、落とした剣を拾い再び構える。
怨霊―――――ただ一点を見つめ、それに立ち向かっていく彼女はとても凛々しくて。
もし自分が女人で、もし神子と同じ立場だったならあのように強く在ることができるだろうか。
そう思って首を振る。
いや、私ならまず戦場に身をおくことすら拒むであろう。
そう。本来なら女人は戦場に立つべきなどではない。
それは、ここにいる八葉全員に共通する思いだろう。神子に戦わせたくないということは。
しかし彼女はそれを否定する。
自分は戦えるのだから、戦うべきだ、と。
そうまでして戦う理由が分からない。
己の手をわざわざ自ら血に染めるなどと。

「敦盛さん―――」

よく通る声がしてハッとする。
視線を動かすと、神子がまっすぐこちらを見ていた。
ドクン。
そんな状況でもないのに、ドクッと脈を打ち始める心臓に苛立ちを覚えた。

「敦盛さん……手を。右手を。術を使いましょう」
「え?」
「四海流撃を、敦盛さん!」

そこまで聞いて、今とどめをさそうとしている怨霊のことを思い出した。

「あ、あぁ……」

つぶやいて神子の手に己の手を重ねる。
あっけなく怨霊は封印された。


「敦盛さん……」

休憩にしようという九郎殿の言葉のあと、私は神子に声をかけられた。

「神子……今日はすまなかった」

そう言って頭を垂れる。戦闘中に余計なことを考えて迷惑をかけた。
言うと、そんなことないです!!と両手をブンブン振って否定された。

「なんか……敦盛さん悩んでるみたいだったから」

心配そうに私を見上げた彼女。なんだかとても申し訳なくて。

「い、いや大丈夫だ……。すまない、心配をかけて」

そう言うと、彼女は少し訝しげに私を見て、そしてその表情を少し緩めた。
そう、それならいいんですけど、と言い、彼女を呼ぶ声に、今行きますと言って、それじゃ、と行ってしまった。
彼女がいなくなった後、私は自分の右手に視線を落とした。
そうして思い出す。
あのとき。

( 四海流撃を、敦盛さん! )

そう言って差し出された左手。重ねた右手。合わさった互いの手のひら。
重ねた瞬間、重なった視線。そらすことのできなかった瞳。
その瞬間、時間が止まったと感じたのは、私だけだったのだろうか。

「あなたも……そう思ってくれていたらいいのに」

想いまで重なっていたならどんなに幸せだろう。




これも気に入ってる話 重なり合って溶けてしまえばいいのに