オオカミ少年

何回言えば、お前は本気にしてくれる?




 言葉がこんなに面倒で難しいなんて思ったことなかったよ。 何度すきだって言っても、可愛いって言っても綺麗だって言っても。 お前は困ったように笑って。

 「もー、ヒノエくんってばそんなことばっかり!」

 って言うんだ。
 どうして信じてくれないんだ。

 「いや、オレは本気だよ?信じてよ」

 って言っても神子姫は信じてくれない。
 冗談だって決め付けてる。
 そりゃ、今までのオレはそうだったかもしれない。 女性は万人が平等に愛でられるものだと思ってたからね。 それなりの愛の言葉を口にのせてきたことも確かに記憶にはある。
 だが、愛でるものを手折ることはしない。
 でも、お前は違うんだ。
今まで過ぎていったどの女ともお前は違う。 初めて手折りたいと、そう思った花。 気高く、美しく、守られるだけじゃなく男をも守りたいと言ってのけた女。 かと思えば、小さいことで怒ったり泣いたり、他人の痛みが分かる女。 女らしくなくて、誰よりも女らしい矛盾に満ちた女。  誰よりも、何よりも手に入れたい女。
 なのに。
 どうしてうまくいかないんだろう。

 ( 今までの…報いかな )

 なんて思ったりもする。
 特に必要と思わなかったときは腐るほどいたのに。 たった一人を見つけたら、そいつは逃げるようにオレから遠ざかる。
 オレには…お前しかもう見えないっていうのに。
 お前以外のヤツと共に過ごすなんてもう考えられないから手に負えない。 お前じゃない誰かがオレの腕の中にいることなんて、もうない。 お前はオレにこれから一人でさびしい夜を数えて眠れっていうの? それはちょっと酷じゃない?
 だから、なぁ、オレの女になれよ。
 こんなことカッコ悪くて絶対お前には言えないけど。
 ……すきなんだ。
すきなんだ、おかしいくらいお前のことが。 誰よりも何よりもお前が。 大切なんだ。 自分が壊れていくくらい、すきだ。

 おかしなもんだよな。
 いつもは女を形容する言葉なんて考えなくても出てくるのに。 こんな時は気の利いたことを一つも言えないなんて。 でも、オレの中にはすきだって言葉しか今はないんだ。 それしかこの感情を表す言葉が見つからない。
 なあ、どうやったらお前は信じてくれる? 言葉じゃダメなのか? なにかあげればいいのか?
 お前が望むならなんだって手に入れてやるから。
 だから。
 でも、お前はそれを望まないと言う。
 じゃあ、オレはどうしたらいいんだ。 ……他に方法が思い浮かばない。
 どうやったらこの想いをお前に伝えられる? どうやったらお前はオレに応えてくれる?

 ( ヒノエくんって余裕あるよねー )

 違う、余裕なんてない。 特にお前のことになると、こんなにも情けない格好悪いオレが出てくる。
 だから軽い口調でごまかすんだ。悟られないように。 お前のことでこんなにも動揺していることを知られないように。
 格好悪いところなんて絶対に見せないから。 いつまでもお前の理想どおりのオレでいるから。
 だから。

 すきなんだ、お前のことが。
 気が狂いそうなほど。

 どうやったらお前はオレを『すきだ』って言ってくれる?




ヘタレヒノエブーム到来していたころ書いた
2005/03/18 composed by Hal Harumiya