「望美、お前を元の世界に帰したくないんだ。オレと一緒に熊野で暮らさないか?」
そうヒノエ君から言われたのは、草薙剣で清盛を倒して戦を終わらせた後だった。
突然のことで頭がよく働いていないわたしにヒノエ君は矢継ぎ早にこう言った。
「ま、海賊が一旦手に入れたものを手放すわけないんだけど」
そう言い放つ彼の顔には勝利を確信したかのような傲慢さが宿っていた。
まるでわたしは絶対断らないと踏んでいるような。
悔しいけど言葉を忘れるほど魅力的だと思った。
「でも……」
一応形だけ迷っている態度を見せるわたし。
本当はそんなこと微塵も思ってないくせに。
もうヒノエ君と離れることなんて考えられないのに。
考えるだけで胸が痛む。
それなのにこんな無駄な言葉遊びを持ち掛けたのは、わたしの自尊心を満たすためだ。
本当にヒノエ君に必要とされていると改めて感じたいがための。
なんてずるくて汚いのだろう。
でもこうでもしないと不安が波紋を広げるかのように襲ってくる。
決して大きくはないがじわじわと、確実に。
本当にこっちに残っていいのか。
向こうの世界に未練はないのか。
残るだけの理由があるのか。
挙げ出したらキリがない。でも、ヒノエ君ならこの不安を取り除くことが出来る。
全ては彼の心にかかっているのだから。
彼がひとこと「必要だ」と言うだけでわたしの心は満たされる。
そしてヒノエ君もわたしがそれを欲しがっているのを知っていて。
ほら今も。
「でも、はなしだぜ?望美、オレにはお前が必要なんだ」
そういつも欲しい言葉をくれるから。
「なあ望美、もう一度言うぜ?オレと一緒に熊野に来いよ。熊野の神々に誓ってお前を幸せにしてみせる。後悔なんかさせない、絶対に」
その強い決意を秘めた高めの声音にわたしは身を震わせた。
こんな風にこの人から言われて幸せだと思わない女がどこにいるだろう。
「姫君、返事を聞かせてくれないかな?」
断れる訳ない。
「……うん…。わたしヒノエ君について行くよ!」
あなたがどうしようもないほどすきですきでしょうがないから。
離れるなんて考えられないから。
それがたとえ今までの人生を天秤にかけるものだったとしても。
わたしは過去に縛られるなら未来を見つめていたい。
そしてその未来にはヒノエ君が絶対必要なのだ。
わたしがそう言うとヒノエ君は一瞬信じられないといったように目を丸くして、焦ったように言葉を紡いだ。
「……本当にいいのかい?今まで持っていたものを全て捨てることになっても?」
まるでわたしがOKと言わないと思っていたような口ぶりだった。
「…っいいに決まってるよ!わたしの心はもう決まってるんだから」
さっきまでの自信は影を潜め、代わりにその顔に浮かんでいるのは困惑と喜び。
「どうしたの?わたしの返事、そんなに意外だった?」
まさかとは思いつつも尋ねてみる。
さっきまでの態度とあからさまに違うものだからこっちも驚いてしまって。
するとヒノエ君は小さくうなづいて、右手で目元を覆った。
「ははっ……ああ、正直お前はついてこないと思ってた」
その微かな笑いは乾いていて、声は少し震えていた。
「嘘っ…だってヒノエ君いっつも自信満々で…さっきも……」
「ああ、どうしてだろうね?お前のことになると余裕なんて全然なくなるんだ」
そう言った彼の表情は微笑んでいる口元以外右手に隠れて見えない。
「さっきの自信なんかはったりだよ。本当は不安だった、押し潰されそうなほど」
うそ。だってあんなに易々と言ったじゃない。お前が必要だって。
そう告げると、ヒノエ君はいつもの傲慢なくらい余裕に溢れた顔を取り戻して。
「だってそれは本当のことだからさ。でも内心は気が気じゃなかったんだぜ?」
そう言って片方の眉を持ち上げて見せた。
その仕草がとても愛しくて胸がぎゅっと痛んだ。
やっぱりわたしはこの人がすきだと改めて確信する。
今のような余裕の表情も、さっきのような思いがけない弱さも。
全てがわたしを捕らえて放さない。
「もう一回聞くぜ、望美。お前をさらってしまってもいいかな?」
わたしは笑って彼の胸に飛び込んだ。
「うん!連れてって、ヒノエくん!!」
大丈夫、あなたがいれば。どんなことにも立ち向かえる。
だからヒノエくん、わたしを、この手を放さないでいて。
そうヒノエ君から言われたのは、草薙剣で清盛を倒して戦を終わらせた後だった。
突然のことで頭がよく働いていないわたしにヒノエ君は矢継ぎ早にこう言った。
「ま、海賊が一旦手に入れたものを手放すわけないんだけど」
そう言い放つ彼の顔には勝利を確信したかのような傲慢さが宿っていた。
まるでわたしは絶対断らないと踏んでいるような。
悔しいけど言葉を忘れるほど魅力的だと思った。
「でも……」
一応形だけ迷っている態度を見せるわたし。
本当はそんなこと微塵も思ってないくせに。
もうヒノエ君と離れることなんて考えられないのに。
考えるだけで胸が痛む。
それなのにこんな無駄な言葉遊びを持ち掛けたのは、わたしの自尊心を満たすためだ。
本当にヒノエ君に必要とされていると改めて感じたいがための。
なんてずるくて汚いのだろう。
でもこうでもしないと不安が波紋を広げるかのように襲ってくる。
決して大きくはないがじわじわと、確実に。
本当にこっちに残っていいのか。
向こうの世界に未練はないのか。
残るだけの理由があるのか。
挙げ出したらキリがない。でも、ヒノエ君ならこの不安を取り除くことが出来る。
全ては彼の心にかかっているのだから。
彼がひとこと「必要だ」と言うだけでわたしの心は満たされる。
そしてヒノエ君もわたしがそれを欲しがっているのを知っていて。
ほら今も。
「でも、はなしだぜ?望美、オレにはお前が必要なんだ」
そういつも欲しい言葉をくれるから。
「なあ望美、もう一度言うぜ?オレと一緒に熊野に来いよ。熊野の神々に誓ってお前を幸せにしてみせる。後悔なんかさせない、絶対に」
その強い決意を秘めた高めの声音にわたしは身を震わせた。
こんな風にこの人から言われて幸せだと思わない女がどこにいるだろう。
「姫君、返事を聞かせてくれないかな?」
断れる訳ない。
「……うん…。わたしヒノエ君について行くよ!」
あなたがどうしようもないほどすきですきでしょうがないから。
離れるなんて考えられないから。
それがたとえ今までの人生を天秤にかけるものだったとしても。
わたしは過去に縛られるなら未来を見つめていたい。
そしてその未来にはヒノエ君が絶対必要なのだ。
わたしがそう言うとヒノエ君は一瞬信じられないといったように目を丸くして、焦ったように言葉を紡いだ。
「……本当にいいのかい?今まで持っていたものを全て捨てることになっても?」
まるでわたしがOKと言わないと思っていたような口ぶりだった。
「…っいいに決まってるよ!わたしの心はもう決まってるんだから」
さっきまでの自信は影を潜め、代わりにその顔に浮かんでいるのは困惑と喜び。
「どうしたの?わたしの返事、そんなに意外だった?」
まさかとは思いつつも尋ねてみる。
さっきまでの態度とあからさまに違うものだからこっちも驚いてしまって。
するとヒノエ君は小さくうなづいて、右手で目元を覆った。
「ははっ……ああ、正直お前はついてこないと思ってた」
その微かな笑いは乾いていて、声は少し震えていた。
「嘘っ…だってヒノエ君いっつも自信満々で…さっきも……」
「ああ、どうしてだろうね?お前のことになると余裕なんて全然なくなるんだ」
そう言った彼の表情は微笑んでいる口元以外右手に隠れて見えない。
「さっきの自信なんかはったりだよ。本当は不安だった、押し潰されそうなほど」
うそ。だってあんなに易々と言ったじゃない。お前が必要だって。
そう告げると、ヒノエ君はいつもの傲慢なくらい余裕に溢れた顔を取り戻して。
「だってそれは本当のことだからさ。でも内心は気が気じゃなかったんだぜ?」
そう言って片方の眉を持ち上げて見せた。
その仕草がとても愛しくて胸がぎゅっと痛んだ。
やっぱりわたしはこの人がすきだと改めて確信する。
今のような余裕の表情も、さっきのような思いがけない弱さも。
全てがわたしを捕らえて放さない。
「もう一回聞くぜ、望美。お前をさらってしまってもいいかな?」
わたしは笑って彼の胸に飛び込んだ。
「うん!連れてって、ヒノエくん!!」
大丈夫、あなたがいれば。どんなことにも立ち向かえる。
だからヒノエくん、わたしを、この手を放さないでいて。
望美がヒノエの唯一の弱点であってほしいなぁ……なんて妄想
2005/08/17 composed by Hal Harumiya
2005年フリー暑中見舞いSS2005/08/17 composed by Hal Harumiya