世の中には様々な花がある。
美しく咲く花。
可憐に咲く花。
艶やかに咲く花。
ひっそりと静かに咲く花。
そのどれもがそれぞれ違った魅力を持っていて。
そのどれもが人を惹きつけてやまない。
女もまた、然り。
女たちはこぞって着飾り、私を見て、と言わんばかり。
妖艶に可憐に舞う。
いろいろな性格の女がいて、その誰もがオレを惹きつける。
愛で、楽しみ、美しく咲き誇る様を眺める。
そんな生活をしていた。
親父が熊野別当だった頃にもたくさんの女が邸を出入りしていたし、それはオレが別当になってからも変わらない。
( いや、むしろ頻繁になったか )
一応親父は既婚者だから、女遊びはそこそこだったけれど。
( オレだって男だし、いろいろと、ね )
遊んでいる、という自覚はある。
見かねた周りがオレをイイ人に引き合わせようとしていることも。
もう何人目かわからないくらい御紹介を受けた。
しかし、身を固める気なんか全くない。
今のままで十分満足してるし、何しろオレはまだ若い。
結婚なんてもっと歳をとってからするものだ。
もう少し経ったら、どこか良家と呼ばれるところの然るべきお嬢さんと結婚するんだから今のうちくらいはいいだろう。
( そう、熊野のみんなの生活を守れるように、力のあるところのお嬢さんとね )
それで構わないと思っていた。
オレは熊野別当、熊野のみんなの幸せを優先させなきゃならない。
たとえそれが愛のない結婚でも、それはそれで構わない。
愛だけでは、本当に守りたいものを守れないと分かっているから。
( でも、そうだな――― )
そこまで考えて、ふとある思いが胸をかすめた。
もし叶うなら一度、一度だけでいい。
命を捨ててもいい、と思うほどの恋を、してみたいと思った。
この姫君のためならなんだってできる、と思えるほどの恋を、胸を焼き尽くすような切ない痛みを味わってみたいと。
そう、思った。
オレの前を通り過ぎた女たちはオレを楽しませてはくれたけれど、『恋』を与えてはくれなかった。
切なくなるほどの痛みも涙も、熱い衝動でさえも、存在はしなかった。
あるのは一時の慰め、気まぐれ。
ただ、それだけ。
でももし、もし叶うなら逢ってみたいと。
( そんな相手が仮にいたとして、それは一体どんな姫君なんだろうな? )
美しく咲く花。
可憐に咲く花。
艶やかに咲く花。
ひっそりと静かに咲く花。
まだ見ぬその相手はいったいどんな花を咲かせる女なのか。
想像するだけで、口元が緩む。
出逢うかもしれない、出逢わないかもしれない。
この先の未来は誰にも分からない。
だからこそ、オレは求める。
まだ見ぬ運命の相手、全てを焼き尽くす炎のような恋。
( 逢った時のお楽しみってやつだね )
オレは視線を宙へと投げた。
そうしてしばらく経った後、烏がこんな話を持ってくる。
『龍神の神子と名乗る少女が京に現れ、この戦乱の世を収めようとしているらしい』
聞けば龍神の神子は源氏の神子として怨霊を封印していると。
そればかりではなく、自らも剣をとり怨霊を切り伏せている、と。
( ヒュー、やるねぇ )
十数年も続くこの戦場を女が剣を手に取り戦うなどとは、正気の沙汰とも思えない。
しかし烏の言うことに間違いはない。
源氏の武士たちの信頼をあれよあれよという間に手中に収め、先陣を切って戦う戦姫。
さぞや勇猛な人物なのだろう。
さらに、その姿はまるでこの世界の者とは思えぬような風変わりな風貌らしい。
剣の腕前は超一流、さらに勇猛果敢な伝説の龍神の神子。
この噂に興味を惹かれぬ男が果たしてこの世にいるだろうか?
( 一度お会いしておいた方がいいかな? )
この目でその姫君を拝んでみたい。
「オレ、ちょっと京へ行ってくるわ。あとはよろしく頼む」
副頭領と親父にそう告げ、オレは一人京へと向かった。
表向きは源氏の大将源九郎義経の動向を探ること。
そしてもう一つは。
( 源氏の神子様とやら、逢える日が楽しみだよ )
美しく咲く花。
可憐に咲く花。
艶やかに咲く花。
ひっそりと静かに咲く花。
そのどれもがそれぞれ違った魅力を持っていて。
そのどれもが人を惹きつけてやまない。
女もまた、然り。
女たちはこぞって着飾り、私を見て、と言わんばかり。
妖艶に可憐に舞う。
いろいろな性格の女がいて、その誰もがオレを惹きつける。
愛で、楽しみ、美しく咲き誇る様を眺める。
そんな生活をしていた。
親父が熊野別当だった頃にもたくさんの女が邸を出入りしていたし、それはオレが別当になってからも変わらない。
( いや、むしろ頻繁になったか )
一応親父は既婚者だから、女遊びはそこそこだったけれど。
( オレだって男だし、いろいろと、ね )
遊んでいる、という自覚はある。
見かねた周りがオレをイイ人に引き合わせようとしていることも。
もう何人目かわからないくらい御紹介を受けた。
しかし、身を固める気なんか全くない。
今のままで十分満足してるし、何しろオレはまだ若い。
結婚なんてもっと歳をとってからするものだ。
もう少し経ったら、どこか良家と呼ばれるところの然るべきお嬢さんと結婚するんだから今のうちくらいはいいだろう。
( そう、熊野のみんなの生活を守れるように、力のあるところのお嬢さんとね )
それで構わないと思っていた。
オレは熊野別当、熊野のみんなの幸せを優先させなきゃならない。
たとえそれが愛のない結婚でも、それはそれで構わない。
愛だけでは、本当に守りたいものを守れないと分かっているから。
( でも、そうだな――― )
そこまで考えて、ふとある思いが胸をかすめた。
もし叶うなら一度、一度だけでいい。
命を捨ててもいい、と思うほどの恋を、してみたいと思った。
この姫君のためならなんだってできる、と思えるほどの恋を、胸を焼き尽くすような切ない痛みを味わってみたいと。
そう、思った。
オレの前を通り過ぎた女たちはオレを楽しませてはくれたけれど、『恋』を与えてはくれなかった。
切なくなるほどの痛みも涙も、熱い衝動でさえも、存在はしなかった。
あるのは一時の慰め、気まぐれ。
ただ、それだけ。
でももし、もし叶うなら逢ってみたいと。
( そんな相手が仮にいたとして、それは一体どんな姫君なんだろうな? )
美しく咲く花。
可憐に咲く花。
艶やかに咲く花。
ひっそりと静かに咲く花。
まだ見ぬその相手はいったいどんな花を咲かせる女なのか。
想像するだけで、口元が緩む。
出逢うかもしれない、出逢わないかもしれない。
この先の未来は誰にも分からない。
だからこそ、オレは求める。
まだ見ぬ運命の相手、全てを焼き尽くす炎のような恋。
( 逢った時のお楽しみってやつだね )
オレは視線を宙へと投げた。
そうしてしばらく経った後、烏がこんな話を持ってくる。
『龍神の神子と名乗る少女が京に現れ、この戦乱の世を収めようとしているらしい』
聞けば龍神の神子は源氏の神子として怨霊を封印していると。
そればかりではなく、自らも剣をとり怨霊を切り伏せている、と。
( ヒュー、やるねぇ )
十数年も続くこの戦場を女が剣を手に取り戦うなどとは、正気の沙汰とも思えない。
しかし烏の言うことに間違いはない。
源氏の武士たちの信頼をあれよあれよという間に手中に収め、先陣を切って戦う戦姫。
さぞや勇猛な人物なのだろう。
さらに、その姿はまるでこの世界の者とは思えぬような風変わりな風貌らしい。
剣の腕前は超一流、さらに勇猛果敢な伝説の龍神の神子。
この噂に興味を惹かれぬ男が果たしてこの世にいるだろうか?
( 一度お会いしておいた方がいいかな? )
この目でその姫君を拝んでみたい。
「オレ、ちょっと京へ行ってくるわ。あとはよろしく頼む」
副頭領と親父にそう告げ、オレは一人京へと向かった。
表向きは源氏の大将源九郎義経の動向を探ること。
そしてもう一つは。
( 源氏の神子様とやら、逢える日が楽しみだよ )
望美に会う前のヒノエ 望美に出会って恋を知ればいいさ なーんて願望が具現化した話
2008/01/19 composed by Hal Harumiya
2008/01/19 composed by Hal Harumiya