わたしがここにいる理由

いつもあなたは笑ってて。
冗談を言って笑い飛ばしたかと思えば、一瞬すごく悲しそうな顔をして微笑む。
ねぇ、なんでそんなに笑うの?
だって……辛そうに見える。がまんして、がまんして……そこには諦めさえ滲んでいるようだから。
そう言うと、またあなたは笑う。
望美ちゃんにはかなわないって。
でも、望美ちゃんがオレのことなんか気にしてちゃだめだよって。

「だって、君は源氏の希望。……白龍の神子様なんだから」

そういったあなたの顔はやっぱりなにか諦めているようなそんな顔。
見ているこっちが切なくて、胸が痛い。
そうやって笑顔の下に本音を隠して。
見えそうなのに、見せてくれそうなのに決して見せない素顔。
何度この笑顔を見ればいいんだろう。
わたしはこんなさびしそうな顔が見たくてここに戻ってきたわけじゃない。
初めて京邸で会って、八葉だって分かって。
初めはなんて軽い人なんだろうって思った。
朔は調子のいい、小心者だって言ってたけど、本当にそのとおりの第一印象。
洗濯好きなことを知られたくないなんて、微笑ましくて好感が持てた。
そして、同時に思ったのは余裕のある人だということ。
軍奉行という重責を笑ってこなせる余裕。
でも違った。
本当は……とても臆病な人だって言うことが分かった。
強くなんかない。本当は臆病で、臆病だからこそ。
人の気持ちに敏感で、感受性が強くて。
強く見せようと虚勢を張って。
すごく……弱い人。
情けないなんて思わなかった。
むしろ、人間らしい。
そんな自分を変えたくて、でもできなくてもがいているあの人を。
守りたいと思ってしまった。
支えてあげたいと思ってしまった。
死なせたくないと、そう思ってしまった。
わたしはあの人に惹かれていた。
守りたくて。
その悲しそうに笑う顔さえも守りたくて。
女の身で何を言う、って思われるかもしれない。
でも、それでも。
私はあの人を、守りたいと思うのだ。
あの人を守る力が、あの人を支える力がこの身にあるなら。
わたしはたとえ何に邪魔されようともその力を振るう。
あなたが心の底から笑ってくれるようになるまで、わたしはその力をあなたのために使う。
わたしはあなたのためにまた時空を超えて、この地に舞い戻ってきたのだから。




景時は、八葉の中で一番人間臭いとおもう だがそこがいい
2005/03/10 composed by Hal Harumiya