灰色の空、灰色の僕、虹色の君

あの時、あの方に見つかった時。

「景時、行くぞ」

そう声をかけられたとき。
オレの世界は灰色になった。




鎌倉殿に見つかり、命をあの御方に預けた瞬間からオレの運命は決まっていた。
家族を目に見えない糸に繋がれ、逃げ場を失ったオレのとるべき道は唯一つ。

『絶対服従』

ただそれだけだった。
鎌倉殿の懐刀、軍奉行―それが俺に与えられた別称。
いや、蔑称。
そう呼ばれるのが本当はずっと苦痛だったなんて知ったら誰もが驚くだろう。
耳ざわりのいいそれらは、オレにとってはただの足枷だった。
出来ることなら、この足枷を取り外して、どこか遠い異国の地へ逃げたかった。
だがオレには家族がいて、守るべきものがあって。
それを捨てることなど出来なかった。
ただの弱虫の負け犬だった。
鎌倉殿が怖かった。

鎌倉殿の背後の茶吉尼天が怖かった。
従うしか、生きる術はなかった。

それからオレは色のない世界で何も考えず生きてきた。
鎌倉殿の命に忠実に従う臣下として。
仲間を、殺めたりもした。
鎌倉殿の御意志に反するものを亡き者とするのはオレの役目だった。
昔から好きだった発明も人殺しの道具を作る卑怯な手段に成り下がっていた。
全ては色のない、灰色の世界。
自分はここで生き、ここで朽ちていくのだと。
そう思っていた。
君がオレの目の前に現れるまでは。

君を初めて見たときは血気盛んなお嬢さんといった感じで。
白龍の神子と言われてもピンと来なかった。

( あーあー!あの伝説の! )

ぐらいの話で自分の中では完結していた。
気になったのは不思議な風貌と、意志の強そうな、瞳、ぐらいで。
だが、自分のその認識は間違っていたのだと気づかされる。
怨霊を封印する時の白い光。
あれに包まれた彼女は恐ろしいほど神々しく。
まるで、存在自体が女神のような錯覚に囚われた。
周りが灰色の世界の中で、彼女だけが虹色に輝いて見えた。
自分は神に見捨てられたのだと思っていたから。

そして、ただ純粋に彼女に憧れた。
彼女のように虹色の光を自分も纏いたい。
この暗い世界から抜け出したい、そう願った。
そうして―――――

「景時さん?」
「えっ!?……っああ、望美ちゃん」

彼女は今オレのそばにいてくれる。
あの出会いからいろんなできごとを経て、オレたちは共にいる。

( 景時さんが悩んでいること、苦しんでいること、全部分かってあげたい。わたしはあなたと共に在りたい )

そう言った彼女が今オレの隣でにっこりと微笑んでいる。
正直に言うと、オレの世界はまだ灰色だ。
でも、彼女が、虹色の彼女が隣にいて、笑って、オレの行く方向を指し示していてくれる。
その道はいつだって輝いていて、オレは迷わずその道を進んでいくことが出来る。
君のために、オレは強く在りたい。
何よりも大事な君のために。




きっと景時は望美に会うまで本当に白黒(時々赤)の世界で生きてたんだろうなーという妄想
2007/05/29 composed by Hal Harumiya


Lacrima/灰色の空、灰色の僕、虹色の君