「おーい、ケイイチ?いるんなら出てきてよー」
これで3度目の呼びかけだ。でも、ケイイチが姿を見せる気配は一向にない。
「おーいってばぁー、どこにいるのよー!」
聞いて欲しいことがあるってのに、こんな時に限っていないんだから、もう!
「ケイイチちゃーん、悪いようにはしないからさぁ…出てき……あ、見っけ」
やっと見つけた。
こんな木の陰に寝てたんじゃそりゃ見つかんないわ。
「まったく…誰かとおんなじでよく寝る子だよね、この子も」
思わずもれる微笑み。
すると、気配を察したのか、むくり、と彼(名前が男の子だし)は起き上がってこちらにのろのろとやってくる。
そうしてわたしの前に来ると、まるで抱いてくれと言わんばかりに大きくニャーと鳴いた。
「はいはい、了解ですよ」
苦笑しながら抱き上げると、それが心地よかったのかもう一度彼はニャーと鳴いた。
「うう、お前は本当に可愛いねぇ…ということでそんな可愛いケイイチくんに相談があるんだよ」
彼を撫で、周りの様子を伺いながらわたしはケイイチに話しかけた。
すると、彼から是の答え。(まあ、ニャーという返事だけど)
「あ、あのさー、し、志水くんともっと仲良くなるにはどうしたらいいかなぁ?」
一瞬の間があって。
ニャー。
鳴いて、そっぽを向いてしまうケイイチ。
そんなの自分で何とかしろってか。
「ちょっと、それが出来ないから相談してるんじゃないのよ!おんなじ名前でしょ?協力してよー」
そう言ってもそっぽを向いたまま。
本当にわたしの言葉が分かってるみたいで。
「だってさ、志水くん今は音楽優先みたいな感じだからさ。邪魔しちゃ悪いなって思うし、わたしも練習あるし」
だけどね。
「もっと仲良くなりたいって、知りたいって思うのはいけないのかな」
せっかく一緒にアンサンブルやってるのに。
もっと仲良くなるチャンスなのに。
上手く踏み出せないなんて。
「こんなに気になるのに、いざ話しかけると言葉が出てこないのはどうしたらいいの?」
聞きたいこと、いっぱいあるのに。
友だちのこと、家族のこと、それからそれから……。
「志水くん自身のこと」
聞きたいのに。
自然とため息が漏れた。
ふと、今までおとなしかったケイイチが突然暴れだしたかと思うと。
するっと腕から逃げて、どこかへ歩いていこうとする。
「ちょっ…ケイイチ!話は終わってないってばー」
わたしはあわててその後を追いかけた。
「カホコ…?」
こんなに探してもいないなんて。
草むらも木の陰ももう探したのに。
「どこに…行ってしまったんだろう?」
いつもはこの辺にいるのに。
僕が会いたくなると、どこからともなくやってきてくれたり。
僕が寝ていると舐めて起こしてくれたり。
そう、まるであの人みたいに。
「今日は会えないのかな……」
ちょっとがっかりしていると、足元に温かい感触。
視線を落とすと、そこにはさっきまで探していた彼女(女の子だから)が僕の足に擦り寄っていた。
「カホコ…よかった、会えて」
抱きかかえると、嬉しそうに擦り寄ってくる彼女。
猫でも嬉しいけど、これが本物の日野先輩だったらどんなに幸せなんだろう。
カホコと呼ばれるたびに嬉しそうにしている彼女を見て、ふとそんなことを考えた。
「カホコ……、日野先輩もそう呼べたらいいのに」
思わず口から出た言葉。
そんなことは無理だってわかってる。
だって僕は、会って話すことだけで精一杯で。
それでも話したくても話せない自分がもどかしくてしょうがないのに。
話したいことがいっぱいあるのに。
たわいもないことでいいんだ。
明日の天気のこととか、風が気持ちいいですねとか、木漏れ日がまぶしいですねとか。
そんな些細なことを話して、うなずきあって、笑って。
それで十分満足なのに。
どうしてそれすらも出来ないんだろう。
< BR> 「カホコ……僕はどうしたらいいんだろう?」
猫になら言えるのに、本人には言えないなんて。
僕の世界を広げてくれたあの人に近づくには一体どうしたら?
すると、カホコがするりと僕の腕から抜け出して。
ついてきなさい、と言わんばかりにすたすたと歩き出した。
「カホコ…?どこに行くの?」
僕はその後を追いかけた。
「もー!ちょっとケイイチ!!どこに行っちゃったのよー」
「はい?」
「え?」
「はい?僕ならここにいますけど」
「うわわっ!し、志水くん!…っち違うの!志水くんじゃなくてケイイチ…猫のケイイチを探してたっていうか」
「あ…そうなんですか……」
「し、志水くんはこんなところで何してるの?」
「あ、はい、僕も今カホコを探してて、あ、」
「え?」
「ああ、ええと、その」
「子猫の名前、わたしの名前をつけてくれたの?」
「ええと、その……はい」
「そっか!なんだかうれしいな。名前呼ばれたかと思ってビックリしちゃった」
「すみません日野先輩」
「あやまらなくていいよ。それより2匹ともいなくなっちゃったね」
「そうみたいですね」
「じゃあさ、志水くん」
今日はここでお話しようか?
あなたのことなんでも教えて欲しいな。
これで3度目の呼びかけだ。でも、ケイイチが姿を見せる気配は一向にない。
「おーいってばぁー、どこにいるのよー!」
聞いて欲しいことがあるってのに、こんな時に限っていないんだから、もう!
「ケイイチちゃーん、悪いようにはしないからさぁ…出てき……あ、見っけ」
やっと見つけた。
こんな木の陰に寝てたんじゃそりゃ見つかんないわ。
「まったく…誰かとおんなじでよく寝る子だよね、この子も」
思わずもれる微笑み。
すると、気配を察したのか、むくり、と彼(名前が男の子だし)は起き上がってこちらにのろのろとやってくる。
そうしてわたしの前に来ると、まるで抱いてくれと言わんばかりに大きくニャーと鳴いた。
「はいはい、了解ですよ」
苦笑しながら抱き上げると、それが心地よかったのかもう一度彼はニャーと鳴いた。
「うう、お前は本当に可愛いねぇ…ということでそんな可愛いケイイチくんに相談があるんだよ」
彼を撫で、周りの様子を伺いながらわたしはケイイチに話しかけた。
すると、彼から是の答え。(まあ、ニャーという返事だけど)
「あ、あのさー、し、志水くんともっと仲良くなるにはどうしたらいいかなぁ?」
一瞬の間があって。
ニャー。
鳴いて、そっぽを向いてしまうケイイチ。
そんなの自分で何とかしろってか。
「ちょっと、それが出来ないから相談してるんじゃないのよ!おんなじ名前でしょ?協力してよー」
そう言ってもそっぽを向いたまま。
本当にわたしの言葉が分かってるみたいで。
「だってさ、志水くん今は音楽優先みたいな感じだからさ。邪魔しちゃ悪いなって思うし、わたしも練習あるし」
だけどね。
「もっと仲良くなりたいって、知りたいって思うのはいけないのかな」
せっかく一緒にアンサンブルやってるのに。
もっと仲良くなるチャンスなのに。
上手く踏み出せないなんて。
「こんなに気になるのに、いざ話しかけると言葉が出てこないのはどうしたらいいの?」
聞きたいこと、いっぱいあるのに。
友だちのこと、家族のこと、それからそれから……。
「志水くん自身のこと」
聞きたいのに。
自然とため息が漏れた。
ふと、今までおとなしかったケイイチが突然暴れだしたかと思うと。
するっと腕から逃げて、どこかへ歩いていこうとする。
「ちょっ…ケイイチ!話は終わってないってばー」
わたしはあわててその後を追いかけた。
「カホコ…?」
こんなに探してもいないなんて。
草むらも木の陰ももう探したのに。
「どこに…行ってしまったんだろう?」
いつもはこの辺にいるのに。
僕が会いたくなると、どこからともなくやってきてくれたり。
僕が寝ていると舐めて起こしてくれたり。
そう、まるであの人みたいに。
「今日は会えないのかな……」
ちょっとがっかりしていると、足元に温かい感触。
視線を落とすと、そこにはさっきまで探していた彼女(女の子だから)が僕の足に擦り寄っていた。
「カホコ…よかった、会えて」
抱きかかえると、嬉しそうに擦り寄ってくる彼女。
猫でも嬉しいけど、これが本物の日野先輩だったらどんなに幸せなんだろう。
カホコと呼ばれるたびに嬉しそうにしている彼女を見て、ふとそんなことを考えた。
「カホコ……、日野先輩もそう呼べたらいいのに」
思わず口から出た言葉。
そんなことは無理だってわかってる。
だって僕は、会って話すことだけで精一杯で。
それでも話したくても話せない自分がもどかしくてしょうがないのに。
話したいことがいっぱいあるのに。
たわいもないことでいいんだ。
明日の天気のこととか、風が気持ちいいですねとか、木漏れ日がまぶしいですねとか。
そんな些細なことを話して、うなずきあって、笑って。
それで十分満足なのに。
どうしてそれすらも出来ないんだろう。
< BR> 「カホコ……僕はどうしたらいいんだろう?」
猫になら言えるのに、本人には言えないなんて。
僕の世界を広げてくれたあの人に近づくには一体どうしたら?
すると、カホコがするりと僕の腕から抜け出して。
ついてきなさい、と言わんばかりにすたすたと歩き出した。
「カホコ…?どこに行くの?」
僕はその後を追いかけた。
「もー!ちょっとケイイチ!!どこに行っちゃったのよー」
「はい?」
「え?」
「はい?僕ならここにいますけど」
「うわわっ!し、志水くん!…っち違うの!志水くんじゃなくてケイイチ…猫のケイイチを探してたっていうか」
「あ…そうなんですか……」
「し、志水くんはこんなところで何してるの?」
「あ、はい、僕も今カホコを探してて、あ、」
「え?」
「ああ、ええと、その」
「子猫の名前、わたしの名前をつけてくれたの?」
「ええと、その……はい」
「そっか!なんだかうれしいな。名前呼ばれたかと思ってビックリしちゃった」
「すみません日野先輩」
「あやまらなくていいよ。それより2匹ともいなくなっちゃったね」
「そうみたいですね」
「じゃあさ、志水くん」
今日はここでお話しようか?
あなたのことなんでも教えて欲しいな。
ほのぼの系にしたかったのに、なぜか不思議系になった
2007/4/6 composed by Hal Harumiya
2007/4/6 composed by Hal Harumiya