幸せのかたち

「おいしーいっっ」

部屋中に響き渡る彼女の声。
よく通るその声音は今、幸せそうに輝いていて。
それは言葉だけでなく、その表情も。
口元をほころばせ、本当に幸せそうに微笑む彼女は目を瞠るほど可愛くて。
そのせいで思わず緩みそうになる口元を、そうさせないようにするので精一杯だった。
彼女は幸せ、幸せと何回も言いながらフォークを口にくわえている。
彼女を幸せにしているのが自分の作ったお菓子だと思うと胸が痛くなるほどうれしい。
それは俺の理想が叶った瞬間で、人にお菓子を通して幸せを与えることができているのだから。
そして、今喜んでくれているのが、自分の想い人ならなおさら。
自分の作ったもので自分の好きな女が喜んでいるのは、なんて幸せなことなんだろう。
胸に広がる熱い感覚にめまいさえ覚える。

「マ、マジっスか……?ちょっと甘すぎかな?と思ったんスけど」

その感覚そのままに紡いだ言葉はいつもよりも早口で。
ガラにもなく高揚している自分に少し驚く。
そして、そんな自分も悪くない、と思っていることにも。

「んーんっ、ぜんっぜん大丈夫だよ。も、本当にカンペキ。まるで……」

突然切れた言葉にふと目を向けると、彼女は顔を赤くして固まっていて。

「……先輩?どうしたんスか?」

そう問うと、ハッと気付いたように彼女は慌てて首を横に振る。

「う、ううんっっ。な、なんでもないの、気にしないで?」

そんなこと言ったって気になる。まるで、の後は何を言おうとしたのか。
知りたい。

「……先輩…。何、言いかけたんスか?」

自然と緩む口元。だってその言葉は。

「い、いやっ、だから気にしないでって……」
「先輩」

俺を幸せにしてくれそうな。

「……だって」「教えてほしいんスけど」

そんな気がするから。

「〜〜〜っあ、あのねっっ、ま、まるで、わたしのために作られたケーキ、みたい」

って、思ったの。
と。
だんだん小さくなる声音と、うつむく仕草がたまらなく可愛くて。
気づくと先輩をこっちに引き寄せて後ろから抱きしめていた。
そしてわざと耳元でささやく。
ああ、この幸せが先輩にも伝わればいいのに。

「当たり前じゃないっスか。先輩のことを考えながら、先輩のために作ったケーキ、なんスから」




ケーキを使ってみて勝手に甘くなっていってくれるのはとてもいいことだと思いました
2006/2/26 composed by Hal Harumiya