Love You Only4

それはそれはとても天気のいい昼下がりだった。

(さて、家事もあらかた終わりましたしこれから何をしましょうか?)

家の中でゆっくりするのもいいが、たまには外に出て散歩でも、と思った。
稽古をしなくなってから体はどんどんなまっていく。

(武器を持つわけにはいきませんから、せめて歩くくらいはしないと)

そう思って。
せっかくだから少し遠くまで足を伸ばしてみようと思った。
散歩はすきだった。
歩いていろんなものを見ているといろんなことを思い出すから。
あったことを振り返るのは未来に進んでいくのに必要なことだ。
そう思って出掛けたのに。
歩いているとあの人のことばかり思い出す。
一番考えたくないことなのに。
ほかに考えなければならないことがたくさんあるはずだ。
個人としての感情に流されている場合ではないはずなのだ。
それなのにどうして。

あんな一瞬で終わってしまった短い蜜月のときのことばかり。


忘れると決めた。
私が降伏した後真っ先に手を伸ばしてくれたのはアメリカさんで。
私はその差し出された手をとった。
あの人は何も言わなかった。
それから私はがむしゃらに復興だけを考えて。
常に私のサポートをしてくれたアメリカさんに認められることだけを考えて働いた。
そうしてアメリカさんに「俺の恋人にならないか?」と言われたときは純粋に嬉しかった。
いつも支えてくれるあの方のことを私は本当に大切に思うようになっていた。
頼り頼られる関係はとても居心地がよく、私は幸せだった。

そう、あの日、あの場所で再びあの人に会うまでは。
一目見た瞬間懐かしく愛しい気持ちが込み上げてきた。
ドクッと胸が大きく跳ねて、体が少し震えた。
一瞬であの頃の私に引きもどされるなど思ってもみなかった。
でもわたしはそれを無理矢理押さえ込んだ。
隣にはアメリカさんがいたし、彼に自分の変化を悟られたくなかった。
だからあの人には出来るだけ近づきたくなかった。
近づいたら私は―――気づいてはいけないものに気づいてしまう。
そう頭が警告していた。

(本当はこの時もうすでに気づいていたのかもしれない)

しかしどんなに祈っても神は無情で。
アメリカさんはあっさり彼に声をかけ。
私はあの人のよそよそしい態度にショックを受けた。
そうして瞬間、分かったのだ。
自分はまだ、この人―イギリスさんがすきなのだ、ということに。
どんなに忘れようとしてみても無駄だったのだ。
今この瞬間こんなに近くにいるというだけでたまらない気持ちになる。
あの人をかたちどる全てに愛しさがこみ上げた。

イギリスさん。

そう叫んで駆け寄りたくなった。

でも。

「さすが俺の恋人だと思わないかい?イギリス」

その一言が私を現実に引き戻した。
アメリカさんに目を向けるといつものような優しい笑みをこちらに向けていて。
胸がぐっと詰まった。
あの人は一言「そうか、よかったな」とだけ言って微笑んだ。
その笑顔が心から微笑んでいるように見えて、私の胸はツキンと痛んだ。
どちらの態度にもいちいち反応してしまう。
私はいったいどうしてしまったのだろう。
そんな自分がいやで、私はひたすら下を向いて時間が過ぎるのを待った。
自分の気持ちが整理できない。
こんなことは初めてだった。
そうこうしているうちにあの人は名を呼ばれ、席を外していった。
見たくないのに、目は勝手に去っていく後姿を見つめていた。

どっちもすきだなんて不道徳もいいところだ。
では、どちらをよりすきなのだろう?

私は……私は……。


私は、自分の気持ちが、わからない。


「日本?」
はっと我に返って、見上げるとアメリカさんがにっこり笑ってこっちを見ていた。
その笑顔がすきで。
すきなのに。
本当に愛しいと思うのに。
貴方を目の前にしていてもどうして私はあの人のことを考えてしまうのだろう。

「にっ、日本!?どうしたんだい?」

そう言われて頬に触れると知らないうちに温かく濡れていて。
私はおろおろしているアメリカさんを見つめたまま。
流れる涙もそのままにその場に立ちすくんでいた。


アメリカさんのこと本当にすきです。
でも、イギリスさんのことも忘れられない。
考えれば考えるほど心の中がぐちゃぐちゃになって。

(だって、わからない。どっちがすきかなんて、決められるわけ、ない)

こんな自分、いっそ壊れてしまえばこんな苦しむこともないのに、と思った。




日を悪女(性別違うよ)にするのが目的
2007/06/06 composed by Hal Harumiya