しばらく一人で色々考えたくて、できるだけあいつの思い出の無いところへ行こうとしたはずが。
どうしてここに来てしまったのだろう。
その場所は、最後にあいつと会った桜の木の下だった。
季節は、夏。
(もうすっかり葉が青々としているな)
この前ここにきたときは満開の桜が堂々と咲き誇っていたから。
あのときの桜も見事なものだったが、こうして散った後の緑も目にまぶしくてとてもすばらしいものだ。
思わず俺は目を細めた。
(どうしてここに…来ちまったんだろうな)
自嘲気味に笑みを漏らしながら考える。
あいつのことを考えたくなくて出かけたはずが、結局あいつとの思い出に縋りついているなんて。
忘れるはずだったのに。
もう人のものになっているやつのことなど、うじうじと想い続けたってしょうがないと頭では分かっているのに。
どうしてあきらめられないんだろう?
はっきり日本にアメリカを取る、と言われたわけではないからだろうか。
いや、そう言われても自分は諦めそうにない気がする。
ひどく落ち込むだろうが、もう一生態度には出さないだろうが、きっと想い続けていくに違いない。
一体そうまでしてあいつに執着する、この感情は何だ?
そこまで考えてふとある考えが頭を掠めた。
(日本がもっと幸せそうにしていたならば、違ったかもしれない)
何かが心にずっと引っかかっていたのだ。
あいつとこの間会ったとき感じた違和感。
(あいつは幸せそうじゃなかった)
どちらかと言えばつらそうで。
ずっとアメリカだけが饒舌にしゃべって日本はその陰に隠れて下を向いていた。
まるで、何かを耐えているようなそんな表情。
幸せじゃないのか?
アメリカと恋人になってあいつは幸せじゃないのか?
俺に向けていたあの甘い笑みを他のやつに向けていると思うと、胸が締め付けられるぐらい苦しいが。
それでも、俺が身を引いたのは幸せになってほしいと思うからで。
それなのに、あいつは幸せじゃない?
それとも、俺に会いたくなかった?
もう俺のなんかなんとも思っていないのに、俺に会ってしまって気まずかった?
だからあんなにつらそうな顔していたのか?
答えは、出ない。
分かったことといえば、自分がとても愚かで諦めの悪い男だったということだけだ。
こんな自分知らなかった。
昔の俺はこんなに一人の人間を想う、なんてことなんかなかった。
ましてや他のやつのものになってしまったやつなど、こっちから願い下げだった。
はずなのに。
今の俺はどうだ?
他の男のものになったやつが諦められなくて、惨めにすがりついている。
少しでも俺にまだ気があるなら、俺は喜んでその手を取ってしまうだろう。
(もし俺を選んでくれるのなら)
そうして、一生俺の腕の中に閉じ込めてもう決して放しはしないだろう。
泣いたって、謝ったって、もう絶対放さない。
あいつの願いなら何でも聞いてやりたいと思うし、それならば。
(たとえ世界を敵に回しても)
俺はあいつと共に在ることを望んでしまうだろう。
不意に。
まるで、閉ざされていた視界が急に開けたように。
俺は全てを悟った。
この気持ちは。
独占欲とも所有欲とも、あらゆる全ての欲とも繋がっているこの感情の名は。
(ああ……俺はあいつの、ことを)
愛しているんだ、と。
瞬間、ざぁ、と、桜の葉が風に煽られさやさやと俺の頭上で鳴った。
まるで、この桜の木があの日の俺たちのことを憶えているかのように。
この気持ちの正体に気がついた俺を励ますかのように。
愛、なんて感情が俺から生まれるとは思っていなかった。
愛なんてこの先ずっと、知ることの無い感情であると、そう考えていたから。
しかし、この胸の想いに名をつけるとしたら。
あいつを想う気持ちに名前をつけるのだとしたら。
自分はこの気持ちに「愛」と名をつけたい。
想い、憎み、慈しみ、恋する。
全てを教えてくれた彼に俺のこの気持ちを捧げよう。
そう思ったら、急に日本に会いたくなっている自分がいた。
会ってどうするのか、と聞かれたら返答に困るが、会って今の気持ちを伝えたいと思った。
それで彼がどういう反応をしても俺はそれで納得できる気がした。
(それで、最後にしよう)
日本に会うのは。
最後に一度だけ、彼に会って、自分の気持ちを伝えて。
後は見守ろう。はじめ自分でそう決めたように。
ただただ日本を愛するが故に。
ただただ彼の幸せを願って。
見上げると、青々とした桜の葉が優しく風に揺れていた。
どうしてここに来てしまったのだろう。
その場所は、最後にあいつと会った桜の木の下だった。
季節は、夏。
(もうすっかり葉が青々としているな)
この前ここにきたときは満開の桜が堂々と咲き誇っていたから。
あのときの桜も見事なものだったが、こうして散った後の緑も目にまぶしくてとてもすばらしいものだ。
思わず俺は目を細めた。
(どうしてここに…来ちまったんだろうな)
自嘲気味に笑みを漏らしながら考える。
あいつのことを考えたくなくて出かけたはずが、結局あいつとの思い出に縋りついているなんて。
忘れるはずだったのに。
もう人のものになっているやつのことなど、うじうじと想い続けたってしょうがないと頭では分かっているのに。
どうしてあきらめられないんだろう?
はっきり日本にアメリカを取る、と言われたわけではないからだろうか。
いや、そう言われても自分は諦めそうにない気がする。
ひどく落ち込むだろうが、もう一生態度には出さないだろうが、きっと想い続けていくに違いない。
一体そうまでしてあいつに執着する、この感情は何だ?
そこまで考えてふとある考えが頭を掠めた。
(日本がもっと幸せそうにしていたならば、違ったかもしれない)
何かが心にずっと引っかかっていたのだ。
あいつとこの間会ったとき感じた違和感。
(あいつは幸せそうじゃなかった)
どちらかと言えばつらそうで。
ずっとアメリカだけが饒舌にしゃべって日本はその陰に隠れて下を向いていた。
まるで、何かを耐えているようなそんな表情。
幸せじゃないのか?
アメリカと恋人になってあいつは幸せじゃないのか?
俺に向けていたあの甘い笑みを他のやつに向けていると思うと、胸が締め付けられるぐらい苦しいが。
それでも、俺が身を引いたのは幸せになってほしいと思うからで。
それなのに、あいつは幸せじゃない?
それとも、俺に会いたくなかった?
もう俺のなんかなんとも思っていないのに、俺に会ってしまって気まずかった?
だからあんなにつらそうな顔していたのか?
答えは、出ない。
分かったことといえば、自分がとても愚かで諦めの悪い男だったということだけだ。
こんな自分知らなかった。
昔の俺はこんなに一人の人間を想う、なんてことなんかなかった。
ましてや他のやつのものになってしまったやつなど、こっちから願い下げだった。
はずなのに。
今の俺はどうだ?
他の男のものになったやつが諦められなくて、惨めにすがりついている。
少しでも俺にまだ気があるなら、俺は喜んでその手を取ってしまうだろう。
(もし俺を選んでくれるのなら)
そうして、一生俺の腕の中に閉じ込めてもう決して放しはしないだろう。
泣いたって、謝ったって、もう絶対放さない。
あいつの願いなら何でも聞いてやりたいと思うし、それならば。
(たとえ世界を敵に回しても)
俺はあいつと共に在ることを望んでしまうだろう。
不意に。
まるで、閉ざされていた視界が急に開けたように。
俺は全てを悟った。
この気持ちは。
独占欲とも所有欲とも、あらゆる全ての欲とも繋がっているこの感情の名は。
(ああ……俺はあいつの、ことを)
愛しているんだ、と。
瞬間、ざぁ、と、桜の葉が風に煽られさやさやと俺の頭上で鳴った。
まるで、この桜の木があの日の俺たちのことを憶えているかのように。
この気持ちの正体に気がついた俺を励ますかのように。
愛、なんて感情が俺から生まれるとは思っていなかった。
愛なんてこの先ずっと、知ることの無い感情であると、そう考えていたから。
しかし、この胸の想いに名をつけるとしたら。
あいつを想う気持ちに名前をつけるのだとしたら。
自分はこの気持ちに「愛」と名をつけたい。
想い、憎み、慈しみ、恋する。
全てを教えてくれた彼に俺のこの気持ちを捧げよう。
そう思ったら、急に日本に会いたくなっている自分がいた。
会ってどうするのか、と聞かれたら返答に困るが、会って今の気持ちを伝えたいと思った。
それで彼がどういう反応をしても俺はそれで納得できる気がした。
(それで、最後にしよう)
日本に会うのは。
最後に一度だけ、彼に会って、自分の気持ちを伝えて。
後は見守ろう。はじめ自分でそう決めたように。
ただただ日本を愛するが故に。
ただただ彼の幸せを願って。
見上げると、青々とした桜の葉が優しく風に揺れていた。
イギリスは愛とか言う感情本当は信じてなかったらいいなぁと(なんて勝手な)
2007/06/20 composed by Hal Harumiya
2007/06/20 composed by Hal Harumiya