―……承知した。汝の、神子としての最後の願い、叶えよう―
「待っ……!」
―…白龍の神子、すまないが従ってもらう―
有無を言わさない口調。でも、その中には諦めの響きもあって。
「どうしてっ!?勝手に決めないで!!」
―…我らは初めて人の意思ではなく、己の意志に従う―
「意味わかんない…っ!!」
まるで駄々をこねる子どものように激しく首を振る望美。
―我らの神子、我らは汝のことを永遠に思っている―
「だからっ!?」
一瞬の静寂。
そして、紡ぐ一言。
―汝には幸福になってもらいたいのだ。今までの…どの神子よりも―
それはきっと、神としてはあるまじき、思い入れというべきもの。
その無機質な声音にほんの少し感情がこもったようだった。
「っ……」
思いがけない言葉に望美の表情が揺らいだ。
その一瞬を待っていたかのように望美の周りが緩やかに光り始めた。
私は別れの時が来たことを悟った。
「!?……ち、ちょっ」
―本当によいのだな…?―
もう一度、念を押すように尋ねる龍神。
龍神自身も葛藤しているのだろう。
このまま理性に従って帰すべきか、それとも本能のままに残すか。
本当は龍神も望美を帰したくはないのだ。私と同じように。
だからこそ。
「よくない!!お願いだから、やめ」「いいわ」
望美の声をわざと遮る。きっぱりと、何の迷いも出さないように。
ただひたすら彼女の幸せを願って。
それが正しいことなのだと自分に言い聞かせて。
だんだん望美の周りから発する光が強くなっていって。
「い、やだよぉ…っ!さ、くぅ…」
望美が自分の体を見ながら呟く。
目を細めてしか彼女を見れなくなった私はだんだん視界がぼやけていくのを感じた。
何を泣くことなんか。
泣いたらダメだ。
泣いてしまったら、私は理性が保てなくなってしまう。
本当は行ってほしくないの、と叫びそうになってしまう。
私はまぶたをきつく閉じた。
泣いてなんかいられない。あの子の中の私の最後の記憶が悔やんだ泣き顔なんて、絶対に嫌だ。
微笑んで。
後悔など感じさせないような顔で。
目を開いた私は、望美を見つめた。
涙は、もう収まっていた。
「望美……」
「朔…」
呟いたあの子の瞳には大粒の涙。
でももう迷わないわ。
涙は見せないって、決めたのだから。
「望美……さよなら」
「…っさ」
「元気で……あなたの幸せを心から祈ってるわ」
「……っひ…朔…」
「こんなこと……私には言う資格ないかもしれないのだけれど……」
「…っ…っさ」
「…あなたはずっと…私の親友よ…望……美…」
「!!…っさ…く…わ…たし…」
そうして。
光が一段と強くなって、それに包まれた望美は消えてしまった。
同時に邸を覆っていた強烈な神気も存在すらしなかったかのように消えてしまった。
応龍と共に。
私は空を見上げた。
夕焼けに染まった空は雲ひとつなく晴れていて。
私のこの気持ちなどまるで気付かないように小さな星が顔を出し始めていた。
そうして、気付く。
私を半年前のあの居心地のよかった場所に戻してくれるものは、もうない。
敦盛殿も、望美も、あの人も。
みんなこれから来る未来に向かっていった。
「…っへんね……涙が出るなんて……」
失ったことが悲しいのではない。
置いて行かれたような気分になったのだ。
私一人が過去に縛られている。
成長できていない感じがして。
もしかしたら、一番あの時間に固執していたのは私だったのかもしれない。
敦盛殿でも、望美でもなく。
この私自身が。
そこまで考えて首を力なく振る。
そのぬるま湯から出てしまったのも、私なのだ。
あの子の幸せを願ったことは変わりない。
自分のことなんか気にもできなくなるくらい、あの子に幸せをあげたかった。
あの子の幸せが私の幸せなのだから。
ねぇ、望美?
私があなたにしたことは絶対に間違ってないと信じているわ。
どんなに非難されてもあれしかあなたを救う方法がなかったの。
向こうの世界がどんな世界かは私には分からないけれど。
あなたの傷を癒してくれる人が必ずいるはずだから。
私はそれを信じてる。
そして。
あなたが幸せに暮らせるように。
あなたの顔から微笑みが絶えないように。
私は、私の龍神の神子としての全てで願う。
そうして私は目を閉じて祈る。
涙がとめどなく流れるのを、抑えるために。
「待っ……!」
―…白龍の神子、すまないが従ってもらう―
有無を言わさない口調。でも、その中には諦めの響きもあって。
「どうしてっ!?勝手に決めないで!!」
―…我らは初めて人の意思ではなく、己の意志に従う―
「意味わかんない…っ!!」
まるで駄々をこねる子どものように激しく首を振る望美。
―我らの神子、我らは汝のことを永遠に思っている―
「だからっ!?」
一瞬の静寂。
そして、紡ぐ一言。
―汝には幸福になってもらいたいのだ。今までの…どの神子よりも―
それはきっと、神としてはあるまじき、思い入れというべきもの。
その無機質な声音にほんの少し感情がこもったようだった。
「っ……」
思いがけない言葉に望美の表情が揺らいだ。
その一瞬を待っていたかのように望美の周りが緩やかに光り始めた。
私は別れの時が来たことを悟った。
「!?……ち、ちょっ」
―本当によいのだな…?―
もう一度、念を押すように尋ねる龍神。
龍神自身も葛藤しているのだろう。
このまま理性に従って帰すべきか、それとも本能のままに残すか。
本当は龍神も望美を帰したくはないのだ。私と同じように。
だからこそ。
「よくない!!お願いだから、やめ」「いいわ」
望美の声をわざと遮る。きっぱりと、何の迷いも出さないように。
ただひたすら彼女の幸せを願って。
それが正しいことなのだと自分に言い聞かせて。
だんだん望美の周りから発する光が強くなっていって。
「い、やだよぉ…っ!さ、くぅ…」
望美が自分の体を見ながら呟く。
目を細めてしか彼女を見れなくなった私はだんだん視界がぼやけていくのを感じた。
何を泣くことなんか。
泣いたらダメだ。
泣いてしまったら、私は理性が保てなくなってしまう。
本当は行ってほしくないの、と叫びそうになってしまう。
私はまぶたをきつく閉じた。
泣いてなんかいられない。あの子の中の私の最後の記憶が悔やんだ泣き顔なんて、絶対に嫌だ。
微笑んで。
後悔など感じさせないような顔で。
目を開いた私は、望美を見つめた。
涙は、もう収まっていた。
「望美……」
「朔…」
呟いたあの子の瞳には大粒の涙。
でももう迷わないわ。
涙は見せないって、決めたのだから。
「望美……さよなら」
「…っさ」
「元気で……あなたの幸せを心から祈ってるわ」
「……っひ…朔…」
「こんなこと……私には言う資格ないかもしれないのだけれど……」
「…っ…っさ」
「…あなたはずっと…私の親友よ…望……美…」
「!!…っさ…く…わ…たし…」
そうして。
光が一段と強くなって、それに包まれた望美は消えてしまった。
同時に邸を覆っていた強烈な神気も存在すらしなかったかのように消えてしまった。
応龍と共に。
私は空を見上げた。
夕焼けに染まった空は雲ひとつなく晴れていて。
私のこの気持ちなどまるで気付かないように小さな星が顔を出し始めていた。
そうして、気付く。
私を半年前のあの居心地のよかった場所に戻してくれるものは、もうない。
敦盛殿も、望美も、あの人も。
みんなこれから来る未来に向かっていった。
「…っへんね……涙が出るなんて……」
失ったことが悲しいのではない。
置いて行かれたような気分になったのだ。
私一人が過去に縛られている。
成長できていない感じがして。
もしかしたら、一番あの時間に固執していたのは私だったのかもしれない。
敦盛殿でも、望美でもなく。
この私自身が。
そこまで考えて首を力なく振る。
そのぬるま湯から出てしまったのも、私なのだ。
あの子の幸せを願ったことは変わりない。
自分のことなんか気にもできなくなるくらい、あの子に幸せをあげたかった。
あの子の幸せが私の幸せなのだから。
ねぇ、望美?
私があなたにしたことは絶対に間違ってないと信じているわ。
どんなに非難されてもあれしかあなたを救う方法がなかったの。
向こうの世界がどんな世界かは私には分からないけれど。
あなたの傷を癒してくれる人が必ずいるはずだから。
私はそれを信じてる。
そして。
あなたが幸せに暮らせるように。
あなたの顔から微笑みが絶えないように。
私は、私の龍神の神子としての全てで願う。
そうして私は目を閉じて祈る。
涙がとめどなく流れるのを、抑えるために。
朔と望美の立場をかぶらせたかったので書けて満足!
2005/07/13 composed by Hal Harumiya
2005/07/13 composed by Hal Harumiya